叶優絵、何時もの一日

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叶優絵、何時もの一日

社会人三年目仕事も少しずつ、入社したばかりの頃から比べれば大分仕事に慣れた頃だろうか。入社した一年目は、何をやってるのか分からないままに夢中で言われるままがむしゃらに仕事をやって来たと思う。 でも未だ未だだと自分を何時も叱咤激励する優絵であった。良くも悪くも優絵は真面目な女性だ。だから残業だって上司の頼みと有れば気持ち良く「はい」と二つ返事で承諾してしまうのだ。 例え、自分の抱えてる案件の締め切りが迫っていたとしても……。 損な性格と言ってしまえば、そうなのかも知れないとそれで終わってしまう。 優絵らしいと言えば優絵らしいのだけど絶対にマイナスしか無いと分かっていても、自分から進んで引き受けてしまいそうだ。 会社組織というのは、要領のいい人間と要領の悪い人間が居るのが普通である。それでバランスが取れているのかも知れない。 間違いなく後者なのが叶優絵という人間だ。 今日も、何時もの一日がやっと終わるんだ。今も御多分に洩れず残業だった。 それも、自分の仕事じゃない、頼んだと言うか押しつけて?行った彼女はとっくに定時で帰って行った。 きっと今頃は合コンの真っ最中の筈だろう。私には、母親が具合悪くて入院中とかで早く帰りたいとか言っていたけれども……。 彼女の母親って人は頻繁に具合が悪くなるらしい。彼女は優絵の先輩だから、気持ち良く残業は引き受けるけど私だって本当は早く帰りたいんだ!って本音では思っている。 誰だって好んで残業する人は居ないだろう。入院してる母親を見舞う為に残業をしなかった彼女。でも本当の理由は合コンだともっぱらの噂だ。 やはり同じ課の場合秘密は持てないという事だ。 優絵に残業を頻繁に押しつける先輩彼女は、良く給湯室で同期の友人と長話してる。しかも一日に何回も目にする。待ち合わせしてるとしか思えないんだけど……? その時間を仕事に充てれば、きっと残業しなくても定時で帰れる筈と優絵は一人で思っている。確かに残業を私に押し付け本人は定時で帰ってるんだけれども。 もちろん、そう思っていても直接本人には言わない。彼女は私より先輩だから。だから、黙って彼女の嘘を信じてる振りして残業を引き受けるだけ。でも彼女は私になんかきっと感謝なんかしていない「サンキュ」なんてきっと口先だけの言葉だ。彼女にお礼を言われるのは仕事を引き受けた時だけ。少しは感謝してくれたら私だって報われるのに。そこに社会の無情を限り無く感じる優絵であった。 彼女にとって私の存在は仕事を押し付けられる便利な後輩としか思っていないのだろう。そしてたった一度でも、残業を断れば、態度を豹変された挙句に蔭口言われて酷い仕打ちが待ってるに違いない。だから断わるのを彼女はとうに諦めてる。自分さえ我慢すれば良い…そんな考えはきっと間違ってる、そうは思うけどこれが社会の不条理なのか……と半分諦めも有る。 それにしてもこの書類の多さはどうなんだろう?溜めるだけ溜めた挙句に最後は後輩に投げるのは如何なものか?どんな性格してるのかと疑いたくもなる。この書類を明日自分がさもやった体で上司に提出するのだろうか……? 彼女のお給料は私よりきっと高い筈。それは自分より数年先輩だからだ。彼女が決して優秀な訳だからじゃない。碌に仕事もせず、給湯室とトイレばかり行くだけなのに、社会の理不尽さにホトホト呆れるばかりだ。 何か納得出来ない私が居る、仕方ないけどこれが現実。私一人が声を挙げても会社はきっと変わらない。ただ一つの掬いは、この残業代がきちんと支払われる事だけである。新人が入ればこの労働環境が変わるというのだろうか。私だって……少しは期待したい。 毎日、自分に与えられた仕事は定時までに終わらせているのに、彼女から振られる仕事のせいで、こうやって残業している理不尽さ。 上司はその日中に終わる程度の仕事を毎日振り分けて部下に采配してくれる。私だってその日に終わらせようと時間配分しながら仕事をしてる積もりだ。 彼女がさぼらずにきちんと仕事をしてれば残業しなくても定時で終わる筈なのに。実際は給湯室に入り浸ってるから、終わらず私に押し付ける事態になるだけなのに。 彼女が異動になるか、私が異動するか、そうでも無い限り現状は改善しないのだろうか。 やっとパソコンを切り、両腕を上に伸ばして、軽くストレッチをする。 もう帰ろう、残りは明日に持ち越ししよう、っと。 人の仕事は、何とか今日中に終わらせて自分の仕事は、明日へ持ち越しするなんて間違ってる思わず私は大きな溜め息をついた。 溜め息を付くと幸福が逃げると誰かが言ってたっけ、でも! そう思う優絵であった。 自分の目前に海が有ったら大声で「バカヤロー!」と叫びたかった!!
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