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思いも掛けない告白
入社して、数ヶ月経った頃、取引先との打ち合わせの為に私は初めて独りで出掛けるようになっていた。
自分が出掛けたり、内の会社に来て貰ったり、毎日忙しいながらも、充実していた。
その男性は、歳上だけあって何時も私をリードしてくれて、私をさり気なくフォローしてくれていた。そうして貰う事に抵抗が無く、自然な振る舞いに思えた。
私より四歳も歳上の取り引き先の男性に私は慣れない事も有って頼っていたのだ。
その日は三回目の打ち合わせになっていて、終業時間を過ぎていたので、会社に帰らず直帰する事になった。会社には連絡だけしておいた。
偶々話しの流れで、食事でもと言う事になり、わたしも異論もなかったので、快諾した。
池田さんと言うその取引先の人は、良く行くと言う和食のお店に案内してくれた。
前もって予約もしてくれていたのか、半個室の部屋に案内された。
「このお店は、知り合いがやってるんだけど、内容の割にリーズナブルな値段で食べられるんで貴重なお店で、良く来るんだ」
と笑った。
「清潔感も有りながら落ち着いた雰囲気で、凄く素敵なお店ですね」
私はお世辞じゃなく、そう言って微笑んだ。
お酒だって提供するお店のはずなのに、店内はガヤガヤうるさく無く、お客さんも良識ある人が多いのかしら、と感じた。
池田さんは、コースを頼んでくれたらしく料理が少しずつ運ばれて来た。一品ずつは少量でも品数が多いから、ボリュームが有る。次々運ばれて来るお料理は、どれも美味しかった。季節の野菜の天ぷら、魚の煮付けや、湯葉の刺身、白和え、私は海老のシンジョウのすり身にとろみの有る餡が掛かってるのが特に気に入った。
家でも食べられそうでいて、味は格別、違いは歴然としていた。流石プロの技だと思った。
簡単に作れそうと思わせながらも、手間が掛かっていて、下味がついていたり、丁寧な下拵えがあってこその美味しさで、決して簡単ではない。
本当に料理は、奥が深い、だからこそ難しい。
自分でも作ってみたいけど、手間も掛かりそうだし、多分同じ味にはならないだろう。今度、和佳奈と来てみようとぼんやり思っていた。
懐石料理みたいに最後に御飯が出る時にはもうお腹が一杯になっていて嬉しい悲鳴を上げた。
「叶さん、お料理は口に合った?」
「はい、どれもこれもとっても美味しかったです。もうお腹が一杯ですよ」
「叶さんは今お付き合いしてる人は居るの?」
「いいえ、居ませんよ。それに私、男性とお付き合いした事ないんです」
「えっそうなんだ、意外だね。だって、こんな素敵な女性なのにね。叶さん、唐突な話で驚かすかもだけど、初めて会った時からずっと貴女の事が好きだった。僕と付き合ってくれないだろうか?」
私は、ただただ、びっくりして目を見開いた。
暫く何も言えずに、黙ったままだった。
「今日もね、自分の気持ちを伝えたくて食事に誘ったんだ、社内では言えないから」
そう言って、池田さんは私を熱の籠った目で私を観ていた。
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