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予想外の再会
池田さんから、告白されてひと月程経った。彼にはあの日から仕事でも一度も会っていない。
その日は珍しく残業も無かった私は、定時に会社を出て、最寄りの駅に向かっていた。
駅の改札に入ろうとした瞬間に彼に会った。
いや会った訳じゃない。
彼を偶々見掛けただけだ。
ここで池田さんに会うなんて凄い偶然だと思うし、それに彼の勤務先の最寄り駅はここじゃないし、今までだってこの駅で彼に会った事はなかった。
池田さんに返事をしてない事もあり、いい機会だと思った私は、
「池田さん」
と声を掛けようとして出した手を思わず引っ込めてしまった。
何故なら彼が一人じゃなかった事に寸前で気づいたから。
わたしからは、死角の位置に彼の隣には女の人が居て、しっかり彼と手を組んでいたのだ。
【誰かしら?腕なんか組んでるからやっぱり彼女?まさか、そんな事ある訳ないわよねぇ】
私は改札に入るのを早々に諦めた。そして二人の後をついて行く事に。私の無意識の行動だった。特に目的は無かったけど、二人が何処にいくのだろうという、単純な私の好奇心だったから。
多分無意識だったのかも知れない。それでもこんなチャンスはもうないかも知れないから。
それに私は、真実を知る資格がある筈だから、と自分に言い聞かせた。
池田さんに交際の返事をする為には、二人の関係を明らかにしなくてはならない筈。
二人は親しそうに、腕を絡ませたままで歩いていた。一体何処へ行くのだろうか?時間的に食事に行くと思うのが、自然な流れだと思う。
私は気づかれないように、二人と距離を取りながら尾行していた。人生初の尾行、しかも私はズブの素人、心臓がドキドキしてて痛いほどだ。
でもその心配は全くの杞憂に終わる。何故なら二人は、全く周囲を気にする気配が皆無だったから。
二人は不倫してる訳じゃないから、不用心過ぎる程に警戒すらしてなかった、笑う位に。
もしも、不倫しているカップルなら、もう少し周囲に警戒していただろう。
二人が映画を観るという可能性だって、残っていた。
確かにこの方角に中規模程度のシネマ館が有ったはず。
未だ目的地には着かないのだろうか?周囲の人が少なくなって来ると段々不安になって来る。
ここで尾行は辞めて置けば良かったのかも知れない。でもここまで尾行したのだから、と言う気持ちがせめぎ合った。
更に五分程歩いた所で二人はビルの中に入り、階段を登った二階に吸い込まれるように入っていった。
私も音を立てない様に気をつけながら、静かに階段を登って二人の後を追う。
二人が入った場所に遅れて入ろうとして、場所を確認しようとして「えっ」私の動きが止まった。
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