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私は…桜が大好きだった…。
暖かい風が私を包み、ふわふわと舞う桜の花びら。
新しい出会いに心を躍らせ、桜の絨毯の上を歩く。
一年の中でほんの数日間しか味わえないあの景色、あの感触。
これからの私の背中を押してくれるような春風が、私のことを応援してくれる綺麗な花たちが。
本当に大好きだった。
あの日までは……。
「桜の花びら頭に乗ってるよ。ほんとにぼけっとしてんなあ」
意地悪に、悪戯笑った彼が私の背後から私の頭の上に乗っかったそれを取り除く。
「もう!からかわないでよ!」
小さい時からずっと一緒。
腐れ縁とも言える彼は、1年間ずっと私の隣にいるような存在だった。
「桜、綺麗だよなあ。けど、ほんの少しの間しかみることができない。本当儚いよなあ」
彼は、立ち止まって空を仰いだ。
そんな彼の周りを桜の花びらはふわふわと舞っている。
「本当、儚いよね」
「お前、俺と桜どっちが好き?」
「え、急に何言ってるの?」
彼の急な発言に私はひどく慌ててしまった。顔が熱くなるのが分かる。私の気持ちなんて彼にはバレバレなのだろう。
「冗談だよ。何動揺してんだよ。」
彼はまた意地悪に笑う。
そんな彼がたまらなく愛おしい。
「本当に綺麗だよな〜さくら」
「そうだね〜」
そんな会話を交わした日だった。
彼が交通事故に遭ってこの世を去ったのは。
本当に命って儚い。
あんなに意地悪にわらっていた彼がいなくなってしまったのだから。
「さくらちゃん。今までうちの子と仲良くしてくれてありがとうね。」
彼のお母さんは涙で化粧もハゲハゲになって、ボロボロの顔をしてそれでも頑張ってその言葉を私に告げてくれた。
私は泣いてしまったら彼の死を認めてしまうようで、泣くことができなかった。
冷たくなった彼の頭に私は桜の花びらを一枚乗せた。
「頭に花びらなんかつけちゃって、本当にボケっとしてるから」
私がからかっても、もう彼は何も言ってくれない。
静かにうっすらと笑った顔をしたままだ。
・
・
・
今年も満開の桜が咲いた。
でも、私の隣はもう彼はいない。
あの日のことを思い出す。
私は桜が嫌いだ。
大好きな彼の笑顔が浮かんでくるから。
涙が溢れてしまうから。
春の暖かな風が、私のことを包み込む。
まるで、泣いている私を彼が抱きしめてくれてるみたいに。
「さくら、本当に綺麗だな」
彼がそう言ってる気がした。
「佐倉 翔くん……」
私は空に向かって彼の名前を呼んだ。
もう2度と一緒に見れることはないかもしれない。
けれど、彼が大好きだった桜を私はもう一度好きになってみようと思った。
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