訳ありオメガと完璧アルファ

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みんなにとって当たり前の日常は、僕にとってはようやく手に入れた初めての幸せだったのだ。だけど、それは長くは続かなかった。番のアルファが亡くなったからだ。 実は、初めから分かっていた事だった。そもそもその人は、余命を宣告されたから僕と契約(つがい)になってくれたのだ。 その人は高校の時の先生。 中二での診断でオメガだと分かって入れられた全寮制のオメガ学校の、高等部の先生だった。 先生は他の人よりも発情期が遅かった僕を心配してくれて、だから初めてそれが訪れた時は誰よりも喜んでくれた。 いいアルファ()を見つけて幸せになりなさい。 先生はオメガにとって、自分を大切にしてくれるアルファと一緒になることが幸せなんだと言っていた。だから無事に発情期が訪れ、オメガとして開花したことを喜んでくれたのだ。だけどそれもつかの間、僕の発情期は不安定に訪れるようになり、抑制剤が効かないことが判明する。そしてそのまま僕は高校を卒業した。 それでもきっと、身体に合う抑制剤はある。だから諦めてはいけない。そう言って先生は励ましてくれたけれど、結局色々な病院にかかりありとあらゆる抑制剤を試しても、僕に効く薬はなかった。 一度発情期を迎えた僕からは常にフェロモンが溢れ出し、通常時でもアルファを惑わした。その上発情期ともなるとベータにも分かるほどの濃いフェロモンを放ち、僕は社会に出ることができなくなった。 大学部へ上がった時はまだ良かった。 オメガ専用の大学だし、住まいもそこの寮だったから。でも卒業したら寮は出なくてはならず、仕事もしなければならない。けれどこんな不安定な発情期では就職はもちろんバイトですら難しかった。それにいつ発情するか分からない恐怖に、僕は外出が怖くなっていた。 家族は()うになかった。 アルファもオメガもいないような地方の小さな町。そこに暮らすベータの家族が、僕の家族だった。ベータの両親とベータの姉。みんなベータで普通の容姿。そこに生まれた異分子の僕。 生まれた時にはオメガだとは分からなかったものの、僕の容姿は明らかに他と違った。誰が見てもその顔は整い、可愛いらしい子だった。と言っても、ベータと比べてだ。オメガの中にいたら、それほど整っている訳では無い。それでもベータしか居ないような小さな片田舎の町では、僕の容姿は異様に目立っていた。 両親のどちらにも似ていない子。それでも赤ん坊の顔なんて、大きくなるにつれて変わるだろう。けれどそんな周囲の予想を裏切り、僕の容姿はさらに際立っていった。すると周りが噂を始める。 上の子はそうでも無いのに、下の子はキレイなお顔。お姉ちゃんは可愛そうね。二人の性別が逆だったら良かったのに。 そして、父親にそっくりな姉と比べ、周囲は悪意の噂も囁き出す。父親が違うんじゃないかと・・・。 僕の存在は小さな町をざわつかせ、平凡で幸せだった家族に不協和音を響かせた。 常に僕と容姿を比べられた姉の心は傷つき、姉はことあるごとに僕に強く当たった。そんな姉を不憫に思った母は姉だけを可愛がり、父親は自分に似ていない僕を疎んじた。そして周囲の噂で母の不貞を疑うようになった父は母を責めるようになり、それに反論した母とは不仲になった。 それでもどうにか家族という形を保っていた家は、僕の第二性診断で完全に崩れてしまう。 ベータしかいないはずの血筋に、突然のオメガ。 両親ともにこの地の生まれで、親戚縁者全てがこの地に住んでいるのだ。当然ベータしかいないはず。なのになぜ、突然オメガが生まれたのか。 母の不貞は疑惑から一気に確信に変わり、母は父方のみならず、自分の親戚からも責められるようになった。 母は最後まで不貞を認めなかったが聞き入れてもらえず、そのまま離婚。姉のみを連れて家を出た。 残された僕は誰にも引き取ってもらえず、オメガ専用の学校に入れられた。少しは親の責任を感じたのか、大学までの学費は父親によって支払われていたが、家を出て以降父とは会うことはおろか、連絡すらとっていない。だから大学を卒業したら自分の力で生きていかなければならなかったのに、僕にはそれが出来なかった。
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