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今回発情期を過ごすのはアルファとオメガが出会うための会員制のクラブだ。
そのクオリティはかなり高く、会員になるためには審査が必要で、アルファはそれなりの財力と地位がなければならない。オメガの方はそれほど厳しい条件はないものの、それなりの家柄が必要だ。だけど一般人でも会員の紹介があれば会員になれる。
そうでなかったら、僕なんかがこんな高級クラブの会員になんてなれるわけがない。
前の会社の先輩が、僕をここに紹介してくれたのだ。
大学を卒業してから、僕はなかなか就職出来ずにいた。それでもどうにか就職した会社に、その先輩はいた。
オメガでありながら、仕事を頑張るその姿は僕に希望をくれた。オメガであるために苦渋しか舐めてこなかった僕でも、頑張れば普通に生きていけるかもしれないと希望をくれた。
同じオメガだからか、その先輩も僕を可愛がってくれて、仕事はもちろんプライベートでも何かと僕を支えてくれた。その先輩が訳あって会社を辞めなければならなくなったときはすごく残念だったけど、それでも自分の抜けた後を任されて僕は仕事を頑張っていたんだ。だけど僕も会社を辞めることになって・・・。
それに関しては納得した上での退職だったけど、ただただその先輩に申し訳なかった。
自分の後継にと期待してくれてたのに、僕はそれに応えられなかったからだ。でもそれすらも先輩は何も言わず、逆に僕の話を聞いてくれた。そして僕の事情を知った先輩は、このクラブを紹介してくれたのだ。
数あるこの手のクラブの中でもここはかなりハイレベルなところで、セキュリティも厳しい。だから入店して受付を済ませると、荷物チェックを行うのだ。それを済ませ、僕はようやくバーフロアへと案内される。
そこで軽めのアルコールを頼み、僕は隅の席へと座った。
ここはアルファ、オメガの出会いの場だ。このバーフロアで相手を見つけ、そのまま奥の部屋へと入る仕組みになっている。アルファ、オメガの場合、ベッドでの相性は避けては通れない。ましてやここは、発情期を迎えるオメガが過ごす場も設けているのだ。
要するにここは、清く美しい出会いの場ではなく、生々しい交わりの相手を探す場なのだ。
ここのシステムは二通り。
平常の状態で相手を探す場合、バーフロアでお酒を楽しみつつ相手を物色し、めぼしい相手を見つけると同意を得て奥の部屋に行くのだ。そして身体の相性を確かめあう。
そしてオメガが発情期を共に過ごす相手を探す場合は、前もって相手への要望をタブレットに記入し、初めから奥の部屋で相手を待つのだ。それは発情期の濃いフェロモンをフロアに撒き散らさないためだ。
ただでさえここは、アルファがたくさん訪れる場所なのに、そんな中に発情中のオメガがいたらどうなるかなど、火を見るより明らかだ。だからそんな事故を防ぐために、発情期のオメガはこのフロアではなく、初めから奥の部屋で相手を待つのだ。奥に入ったオメガの情報は専用のタブレットから閲覧でき、気に入ったオメガを選ぶことができる。そしてそこから相手を指名すると中で待つオメガに通知が行き、オメガはその相手へ返事を返す。上手くマッチングすればアルファはオメガが待つ部屋へと案内され、そのままベッドを共にするのだ。
発情期のオメガは冷静に考えることなどできないことが多いので、ベッドでの要望は予めタブレットに記入しおくのだ。大体は挿入時に避妊具をつけるのかそのままするのかくらいだけど、中にはNG行動や、自分の癖、更には特殊な性癖などを書き込む人もいる。
僕は避妊具なしでの挿入と、中に直接出してもらうことを希望した。なるべく早く発情期を終わらせたいし、何より、こんな僕を選んでくれるだけで良かったからだ。
今日はこのバーフロアで相手を見つけてから奥へ移る予定だったけど、思ったよりも発情の進みが早い。奥に下がって、アルファが来るのを待とう。そう思って、僕はタブレットに入室してからのキャンセルも可能だと追記した。
実際会ったら、こんなはずじゃなかったと思われるかもしれないから。だって僕は・・・。
「辛そうですね」
タブレット記入を終えたところに、誰かが声をかけてきた。
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