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なのに僕の身体は抑制剤が効きにくく、どんなに強い抑制剤を飲んでも発情を抑えられないどころか、フェロモンすら抑えられないのだ。しかもそれはいつ来るか分からない。
ここのところずっと安定していたのに・・・。
自覚したらどんどん上がる熱に、呼吸も次第に熱くなる。けれどまだ仕事中だ。
とにかく今日の業務は終えてしまおう。
僕は他の社員に気づかれないようにできるだけ平静さを装い、仕事を進めていく。本来なら僕からは大量に発情のフェロモンが出ているはずだけど、今の僕なら大丈夫だ。なぜならこのうなじに噛み跡が残っている限り、僕のフェロモンは周囲に気づかれることは無い。それでも吐く息は熱く、少しの刺激で下肢が疼く。
早く、終われ・・・。
そう思いながらひたすら発情を堪えていると、ようやく終業時間を迎えた。
やっと終わった・・・。
僕はなんとか帰り支度を済ませ、席を立とうとしたその時、背後に誰かが立った。
「具合が悪いのではありませんか?」
課長だ。
他の人に気づかれないようになのか、身体を屈ませ僕の耳元で小さく囁いた。そのかかる吐息に、僕の身体の熱が急激に上がる。
「・・・っ・・・大丈夫で・・・すっ。お疲れ様でしたっ」
僕はそのまま勢いよく立ち上がり、課長と視線を合わせないまま会釈をして足早にオフィスを出た。
いくら他のアルファのフェロモンを感じないからと言って、発情した身体には毒にしかならない。僕は移動しながらオメガ専用のタクシーを呼び、会社の前で飛び乗った。
一瞬そのまま帰ろうかと思ったけれど、これはいい機会なのではないかと思った。
この発情はどうせ一晩で終わる。ならばこのままクラブの部屋でユウさんを待ってみてもいいかもしれない。このままうじうじと考えて何も出来ないよりも、いっそはっきりさせた方がいい。この発情で理性が飛びかけてるうちに、事をはっきりさせてしまおう。
僕はスマホでクラブへの予約をした。そしてアルファの入室の条件はお気に入りに登録した人のみ。つまり、僕はユウさんしか登録していないから、ユウさんが入室を希望したら即OKという事だ。
きっとクラブの部屋に入ったら、すぐに僕の意識は飛んでしまうだろう。だから本当にユウさんが来てくれたかどうかは朝分かるはずだ。もし来てくれなくても、意識が飛んでるから大丈夫。ただいつもと変わらぬ朝が訪れ、日常に戻るだけだ。そして今度こそ気持ちを切り替えて、他のアルファを探そう。
そう思いながらなんとか意識を保ち、僕はクラブの部屋へと入った。
案の定、ピルを飲みチョーカーをつけたところで、僕の意識は直ぐに飛んでしまう。そしてそんな僕が目を覚ましたのは翌朝だった。
夢の中で僕は再びバタンという音を聞く。
デジャブ。
あの時は本当にドアが閉まる音で目が覚めたけれど、そんな都合のいい話がある訳ない。
そう思いながら、僕はそっと隣へ手を伸ばす。すると感じた温かな感触に、僕は驚いて飛び起きた。けれどその時どっと流れ出てきたものに、僕の動きが止まる。
来てくれた・・・?
身体を起こした拍子に中から出てきたそれを、僕は手を伸ばして掬いとる。
まさか発情して溢れ出た自分のじゃないよね・・・?
いくらオメガで濡れると言っも、こんなに溢れ出たことは無い。だけど、もしかしたら体質が変わって・・・。
そう思ったけれど、それは杞憂だった。
手を濡らしたそれは白く、特有の匂いがした。
やっぱり来てくれたんだ。
うなじに噛み跡がある僕には、それは普通の匂いしかしない。だけど、その匂いすら愛おしい。
心がいっぱいになる。
この気持ちはなんだろう。
今まで感じたことの無い何かが僕の心を満たし、ふわふわしてくる。
心も身体も満たされて、とても落ち着いている。少しだるさは残るものの、以前のように動けないほどではない。
僕は手を拭い、本当に来てくれたのかタブレットで確認した。すると『You』18:58入室となっている。
タブレットのその表示に、僕の胸が熱くなる。
僕の入室が18時20分だから、きっと通知が行ってすぐに来てくれたのだろう。
本当に来てくれた。
そしてずっと僕と過ごしてくれて、さっき帰ったんだ。退室が7時6分になってる。
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