1857人が本棚に入れています
本棚に追加
今日は朝から熱っぽい。
そろそろ発情期だ。
今夜辺り来そう・・・。
そう思いながらも今日の業務を終え、僕は帰り支度を始める。
この会社に契約社員で来て2ヶ月。仕事にも慣れ、定時に仕事を終わらせる事ができるようになった。
いつもならまだ残る社員さんに挨拶をしてこのまま帰るのだけど、僕は課長のところに向かった。
「お疲れ様です」
そう言って課長の前に立つと予め書いておいた発情期休暇の申請書を出した。
「よろしくお願いします」
申請は明日から土日を挟んで月曜日まで。今日は木曜日なので、金曜と月曜の休暇申請だ。
「これだけで大丈夫ですか?」
申請書を見た課長がそう言ってくれたけど、多分これで大丈夫。
「大丈夫です」
確かに4日間だけだと短く思うけど、今回は最短で終わるようにしようと思ってるので、おそらく長くはかからないだろう。
「そうですか。でももしこれ以上かかるようでしたら、遠慮せずに休んでくださいね」
そう言ってやさしく笑ってくれる課長に、僕も微笑み返す。
「ありがとうございます。それでは失礼します」
「お疲れ様でした」
僕はそうして課長に見送られてオフィスを出た。
今日もかっこいい。
課長は僕が今まで出会ったアルファの中で、一番完璧なアルファだ。
容姿、スタイルはもちろん、仕事は出来るし頭もいい。そして何より、アルファとしての力がとても強い。なのに全然高圧的ではなく誰にでも優しくて、オメガの僕にも他の人と変わらず接してくれる。
ほんと、すごく素敵な人。
きっと香りもすごくいいのだろう。
アルファだから当然フェロモンがあり、その人特有の香りをまとっているはずだ。けれど僕は、オメガでありながらその香りを感じることが出来ない。香りどころかフェロモンも感じることが出来ないのだ。
でも、アルファの強さは分かる。
こんなに完璧な人がいるのかと思うほど課長のアルファとしてのクオリティは高く、非の打ち所がない。
天は二物も三物も与えてしまったようだ。
でも完璧な人って存在しないよね。きっと僕の知らないところで欠点が一つくらいあるはずだ。
例えば、人には言えないような特殊な趣味があるとか・・・。
というのも、あんなに完璧なアルファなのに、課長はまだ結婚をしていない。
アルファだから見た目では判断できないけれど、年はきっと30代も半ばを過ぎているはず。世間ではとっくに結婚して子供がいてもおかしくはない。なのに課長の指には指輪ははまっておらず、番もいないらしい。
ちゃんと本人に聞いたわけではないけれど、他の社員さんがそう言っていたのでそうなのだと思う。
お金も地位も名誉もあって、その上見た目も良くてアルファなのに、性格は優しくて部下からも慕われる様な人が未だ独身なんて、何か隠れた欠点があるに違いない。
・・・というか、そうでもなかったら世の中不公平すぎて嫌になる。
僕の人生なんて、最悪なのに・・・。
そう思いながら僕は家に帰ると荷造りを始めた。発情期を過ごすためだ。
いつもなら家にこもって一人で過ごすのだけど、今回初めて施設を利用することにした。
アルファとオメガが出会うための施設。
数少ないアルファとオメガのカップルを増やすために、こういった施設が世の中に結構存在する。アルファはアルファ×オメガカップルの間に生まれやすく、その数を増やしたい国は積極的にこの政策を進めている。なので公営でもそういった施設はあるけれど、民間でも結構あるのだ。けれどその中身はピンキリ。それこそ一夜の相手を求める様なところから、身元のはっきりした客しか入れない様なところもある。だからこそどんなところなのか、ちゃんと見極めて行かないと大変な目に遭ってしまうのだ。とくにオメガは、一生を台無しにされてしまう可能性があるので慎重にならないといけない。
普通に生活していて出会いがあれば、こんなところに行かなくてもいいんだけど、それが出来ない僕のような人間は、こういったところにお世話にならないと相手を見つけられない。
本当に、僕の人生って最悪だ。
そう思いながら荷物を詰めたバッグを持って家を出た。
最初のコメントを投稿しよう!