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誰もいない通学路をわたし────門倉藍菜はゆっくり歩いていた。
8時27分。
余裕のよっちゃんで遅刻だ。あーあ、またクラスのみんなに遅いだのなんだの言われるんだろーなー。このままUターンして帰ろーかな。
そう思いながら、白いガードレールの向こうの街を見下ろす。
両手を銃の形にして、右手の親指と左手の人差し指、左手の親指と右手の人差し指をくっつけて、四角を作る。
四角の枠の中に一瞬、テレビの砂嵐が流れたかと思うと、枠の外とは違う、少し明るくなった街が映った。
学校の方に両手を移動させると、校舎に入っていくわたしが見えた。これは、今日の今から30分後の出来事だ。
未来の自分が学校に行っているのなら仕方がない。と、止まっていた足を前に進めた。
わたしは、過去と未来を見る事が出来る。
まあ、両手で四角を作らないといけないし、その枠の中でしか未来は見えない、というのがちょこっと面倒だけれど。
それと、見える時間は指定する事ができる。今回の場合は、ここから学校まで約30分だから、30分後の未来を見た、という訳。
ここでなぜこの能力が使えるのか、という質問にお答えしまーす。
さかのぼること16年前。
天国か地獄かわからない、何だかふわふわした場所に、わたしはいた。
8メートルほど向こうに座った神様らしき人と、その両隣に立っているおつきらしき人が、わたしを見下ろしていた。
『お前は今世、この能力を有効に使って前世の分も生きるのだ。でなければ、お前は二度と輪廻の輪に戻ることはないだろう。』
そう、神様らしき人に言われたことがきっかけ。
わたしは前世の事は覚えておらず、なぜ神様らしき人にこんな事言われたのかは分からないけれど、あの頃のわたしは素直に『はい』と返事をした。
あの時のことは、昨日の晩御飯より鮮明で正確に覚えている。そのこともあり、わたしはこの能力を使って、細々と人助けをしたり、困った時は未来のわたしを見たりして暮らしている。
わたし自身、未来を変えることはあまりよくないと思っているので、人助けはあくまで忘れ物の注意ほどで済ませているけれど。
これくらいで神様らしき人が満足するかはわからないけれど、今のわたしは満足しているので、これでいい。わたしはこのまま気ままに生きていこうと思う。
……気ままに生きようと思っていた。
今日、教室に着くまでは。
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