戸惑う僕

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戸惑う僕

「…ああうん…」  へぇー地球って名前なんだ。僕のクラスにも火星って書いてマーズって読む子がいるなぁ。 「ほ、星の名前なんてかっこいいね」  自分とそっくりな人に近づかれて驚いていたけど、なんとか声を出すことができた。 「違うよ!本当に地球なんだって!まぁ今は精霊的な感じでここにいるんだけど。ここに来る時はいつも僕に住んでる人間や生き物を適当に選んで姿を借りてるの。そうやってたまに僕自身に遊びにきてるんだ。僕で暮らすものの様子をみたくなるんだよね。文明もかなりすすんできていて、みてると面白いんだ!」  な、なんだ……急にいろいろ設定を話しはじめたぞ。小説家志望かなにか? 「あ!信じてないでしょ!本当なんだって!だって君と全く同じ姿でしょ?ここまで同じ人なんていないよ?」  はっ!そうだった!この長袖シャツもズボンもかっこいい髪型も、全部僕だ…… 「……本当なの?」 「本当だよ、姿を借りてるって言ったでしょ?借りた人物に会うのは初めてだったから思わず話しかけちゃった!」  彼は嬉しそうな顔をする。 「まだ信じられない?」  僕が黙っていると彼はちょっと顔をくもらせた。 「うーん。じゃあ僕がみてきた歴史を言うね。倭国の女王卑弥呼様に会った時なんだけど……」 「ま、待って。卑弥呼って授業で今習ってるところだけど彼女、弟にしか姿をみせなかったって……」 「あぁ、その時僕はその弟の姿を借りたからね。それでさーどんなふうに政治してたかというと」 「待って!授業で習うから!ネタバレやめて!」 「大げさだなぁ。そうだ、僕がその時補佐として助言したことはー」 「本当やめてください、お願いします……」  もしかしたら貴重な話を聞く機会かもしれない。でも僕は帰って1人でゆっくり歴史の教科書を読むという楽しみを奪われたくなかったのだ。 「……分かったよ。じゃあ信じてくれる?」  これ……信じてみるか。 「分かったよ、本当に地球なんだね。今は精霊みたいな感じでここにいるんだよね。今までもそうやって地球に様子をみにきてたんだね。なんだか非現実的だなあ。でも本当なんだよね」  僕はため息をついて言った。信じられないけど自分で話してみるとだんだんそうなんだと思えてくる。彼はにっこりしながら頷いた。 「僕ね、いろいろ町を見てきたところなんだ。今からは公園で遊ぼうかなと思って。一緒に遊ぼうよ」 「子どもか?地球の年齢って確か……」 「やめて!長生きなのは分かってるけどまだまだ若いつもりだから!」 僕たちは公園へ向かうことにした。地球と過ごすなんて初めてだ。そもそも地球と過ごすってなに。   「地球がピンチ?明日(アース)なんとかしよう!」 「……」 「あれー?ウケない?星仲間たちには大ウケなのに」 「笑えないよ、地球がピンチとか……」 「ジョークだよ」 「分かってるけど。僕は地球の将来が不安でさ。このまま温暖化が進めば……」  「ほー真面目な子もいたもんだ。僕の将来は君に任せたよ!」 「プレッシャーやめて!」    公園に着いた。地球はわーっとアスレチックに飛びつく。 「今日は50年振りに僕にきたよ。いろいろ進化してるなー。思いっきり楽しもう!」 「ご、ごじゅう……」   僕にとっては壮大な年月でも、地球にとっては数ヶ月の年月なのかもしれない。 「あ、落ちそう。君ちょっと支えてくれない?」 「うん」 「僕、体重約5,972,000,000兆トンだから」 「え……」 「ぷぷぷ!ちょっと言ってみただけ〜。大丈夫だって!今は君と同じ体重だから。笑える、気にしちゃってさー」 「わ、分かってるよ、一瞬驚いただけ!」  僕は地球に駆け寄った。  それから僕らは公園の遊具で遊んだ。 「これ!滑り台やりたかったんだよね!わーい」  地球はすすいと階段を登るとシャーッと滑り台を滑る。 「はー僕がちょうどいい重力持ちで良かったよ。まえに月さんとこ遊びに行った時のふわふわ感も良かったけど、こっちもいいねぇ」 「重力持ちとか初めて聞く言葉だよ」  僕はだいぶ彼といるのに慣れてきてクスクス笑った。   「ん?あれは!氷屋!」 滑り台を5回ほど滑った地球が、6回目を滑り降りた時、向こうからやってくるワゴンを見つけて指差した。 「移動販売のアイスワゴンだよ」 「いーなー食べたいけど僕お金持ってない……」  地球はじーっとワゴンを見つめている。はぁ仕方ないな。 「僕今日お小遣い持ってるから1個買ってあげる」  こういう気遣いがモテるコツなのさ。 「本当?いいの?ありがとう!」 「じゃあ行こう」  店のおじさんには双子だと思われたけどまぁいいか。地球はコーンのバニラアイスを選んだ。  スプーンを2つもらい、2人で食べる。 「うーん甘くておいしーい!前にホッキョクグマの体を借りて北極の氷をかじったけど、おいしくなかったなぁ……」 「氷かじったの⁉︎」 「うん、透明でキラキラしてて美味しそうにみえたからさー。でも味なかった!」  アイスはほてった体をひんやりと冷やしてくれる。滑らかな味わいが口の中に広がって溶けていく。バニラ最高! 「また体重増えちゃうね、地球くん」  僕はにやりと笑った。 「もーやめてー。気にしちゃうじゃない」 「女子か」 「誰でも体重は気にするでしょ。それに僕は今男性だけど本来性別ないからね。逆を言えば男性でも女性でもあるんだから。そこんとこよろしく」 「あ、うん。ごめんごめん地球くん」 「僕、君より年上。それもかなりね」 「……地球さん」 「うむ。それでよろしい」  地球は大きく頷くとまたひとすくいアイスを食べてふにゃあと笑った。 「うまー!」  僕って笑うとこんなにかわいいんだなー。  地球はどんどんアイスをすくっては口に運んでいる。僕も負けじと大きくアイスをすくって口にいれる。僕はいつでも食べれるからと、コーンを地球に譲った。 「ありがとう!アイスと一緒に食べるとこれまたうまい!サクサクがふにゃふにゃになっておもしろーい!」  僕は地球といるのが楽しくなっていた。2人でしばらく一緒に過ごした。
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