〜*〜*〜 突然の別れ 〜*〜*〜

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「え、ちょっと……」  樹は唖然としたが、また鳴らす。何度も鳴らす。 『ピンポーン ピンポーン ピンポーン』 「じゃ じゃあどこか病院を紹介してください、お願いします。このままじゃ死んじゃいます」  この必死の叫びは中の人に届いているのだろうか。  『どこか他の病院に行こうか』  リリーを抱えて少し持ち上げてみた。 「どうしよう……もう抱けない」  ここまで抱きかかえてきたが、一度下ろしてしまったらもう抱き上げて移動することなんてできないだろう。  どうすることもできずリリーを抱いてしゃがみこんでいた。  暫くして中の明かりが付いて鍵が開く音がした。  『ガチャッ』  扉が開いた。 「院長もうすぐ帰ってくるから どうぞ」  これが樹と葉月の出会いだ。  『ここには何度も来ているが初めて見る人だ』 「あ ありがとうございます」  わずかに残った力でリリーを抱き上げようとしたが無理だった。 「俺が抱いてもいい?」  男が樹にそう聞いた。 「え、はい。お願いします」  すると男がリリーを運んで診察台に乗せてくれた。 「すみません」 「どんな感じなんですか」  酸素マスクを当てながら色々聞いてきた。  夕方からの様子をなるべく細かく話した。 「んー こりゃ……」  男は診察券を頼りにだしてきたカルテを見て、聴診器で心音を確かめながらそう小声で言った。 (この人獣医さんなんだろうか? リリーはそんなに悪いの?)  確かに今まで見たことのない衰弱した様子だ。  暫くすると、診察室のドアが開き院長が帰ってきた。 「イヤーごめんね、いつもはちゃんといるんだけど、ちょっと集まりがあって留守番置いていったんだけど…… おや、やっぱり樹くんだったか……」 「え?」  何でわかったんだろ。  チラッとリリーを見た院長の顔が曇った。 「樹くん。処置するからちょっと待合室で待っててね」  そう言って診察室の外に出された。    三十分くらい待っただろうか、診察室のドアが開いて、院長が樹の隣に座った。  『何を言われるのか』  樹の心臓は口から飛び出そうになっていた。  院長はゆっくり話しだした。
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