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近所にあるショッピングモールのATMコーナーまでやってきたお婆さんは、入り口の手前に立ち止まりスマートフォンから折り返した。
「もしもし、ゆっちゃんかえ?」
「そう、オレオレ。ゆっちゃんだよ。で、ATMに着いた?」
「着いたよ。それよりあんた、どこにおるんだい? ATMの前で待っているのかと思ったんやけど」
「足の骨が折れてるから家にいるよ。そんなことよりさ、口座番号言うから早く四百万振り込んでよ」
「ああ分かったよ。四百だったかいな? まあいいか」
ヒロシは一〇分ほど待ったが、通話が切れてから音沙汰がない。ATMの入金になぜそれほど時間がかかるのか。使い方が分からなくて手間取っているのかもしれない。時間の経過と共に気が変わってしまわないだろうか。でも、ひ孫を助けたいという一心で頭の中がいっぱいなんじゃないだろうか。こういう仕事はタイミングとリズムが大事だと思う。仕方ない、フォローの電話を入れるとしよう。
「おばあちゃん、まだか?」
「混んどる。混んどるわ。このままちょっと待っとってな」
「マジかっ(早く言えよ)。どれくらいかかりそう?」
「十人は並んどるなぁ」
「くそっ。しゃあねぇな。じゃあ隣のATMへ移動してくれ」
「銀行違うけどいいのかい?」
「大丈夫だよ」
再び一〇分ほど待ったヒロシは、音沙汰の無いスマホを見つめ踵を小刻みに揺すっていた。今度こそ使い方が分からなくて戸惑っているのだろうか。余り急かすと怪しまれるかもしれない。でも、あまりにも時間がかかり過ぎだ。もう一度フォローの電話を入れた。
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