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 俺の言葉を聞いた婆さんは、小さく溜め息を吐きゆっくりと話し始めた。 「自分の能力に罪は無いよ。能力とは、あくまでも道具の一つに過ぎない。善に使うも、悪に使うもお前さん次第だよ。大事なのは、身に着けた能力で何をしたいかだ。お前さんは、自慢のコミュ力で人を騙したかったのかい?」 「違う!」  ギュっと握った拳に力が入る。俯いたまま俺は、唇を震わせた。俺はいったい、何がしたかったんだ。人生の成功? 人の為・世の為の社会貢献? 金儲け? それとも……。 「あなた、お名前は?」 「──ヒロシ」  お婆さんは、俺の両肩に手を置いてこう言った。その優しみに満ちた口調はまるで、子供の頃に災害で亡くした母の声音と重なった。 「ヒロシさん。少し不器用なお人のようだけど、もがいてもがいて、もがき尽くしてでも、あなたの望む人生が手に入るまでは諦めちゃだめよ」  この人は、こんな俺を励ましてくれるのか。本当は、俺がそれをやりたかったことだったのに。誰かを元気にしたい。 「俺は、どこで間違えてしまったんだろう」 「最初からじゃないかしら?」  う、鋭い。 「間違いに気付けたのなら、正せばいいだけのことよ。がんばんな!」 「お婆さん、ありがとう」  このあと俺は初めてパトカーに乗り、警察署へと連行された。 『諦めちゃだめよ──』  耳の奥で反芻するお婆さんの言葉が、この先にどんな未来が待っているか分からないけど、俺の背中を押してくれている気がした。 了
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