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隆太は大学三年生に、真澄は四年生になった。
今年の花見は遠出をしない予定だ。今年の開花は例年より遅く、まだ蕾が多い。
就職の合同説明会の帰りである真澄はスーツにトレンチコート姿だ。きちっと結ばれた髪が美しい。
大学キャンパス内のベンチで課題の本を読んでいた隆太は本を脇に置いて手を振った。
就活用のシンプルで整ったメイク姿だと真澄がもっと年上に見える。そのくらいしっかりしている。
「さて! ゼミの課題もやらないと」
真澄の笑顔を見て隆太はすぐに気がついた。隆太は眩しそうに目を細める。真澄は首を傾げる。曇り空の下だ。
「最近の真澄さんは元気そうだなって」
真澄は目をぱっちり丸くする。アイシャドウが淡く輝いた。
「前から思ってたんだよ」
真澄は驚いているが、大きく頷いた。
昨年、二人で夜桜を見てから真澄は隆太に頼ってくれるようになった。どこのゼミに行くか、本当にやりたい事が何か、隆太を信じて相談してくれた。
ゼミに慣れた頃から真澄の元気が蘇ってきたと隆太は気がついたが、あえて言わずに見守っていた。
真澄が高校時代に戻ったから嬉しいと思っていると、彼女に誤解させたら嫌だったのだ。だけどもうその心配もいらないだろう。
「真澄さんが元気になって嬉しいよ」
嬉しそうにしていた真澄だったが、瞳が潤み、涙を零す。そして隆太の胸に飛び込んだ。
二人で抱きしめ合うと真澄の涙はすぐに消えて笑顔になった。
「隆太くんと付き合ってよかった」
今度は隆太も泣いてしまった。
夕陽の下を二人で手を繋いで歩く。
「そろそろ咲きそうだね」
真澄が蕾を指して隆太に教える。
「隆太くんは桜が大好きでしょ」
「桜も好きだよ」
隆太を振り返る真澄はいきなりのキスに驚く。
開花したら二人で見に行くと約束した。
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