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隆太が大学に入学したばかりの頃。
サークルの飲み会で遅くなっても一枚羽織れば平気だ。春の陽気は日が落ちたはずの夜にも続いているように思える。
隆太はバドミントンサークルの新入生歓迎会から午後十一時に帰宅した。
携帯に真澄からの着信があり、隆太の口元が緩んだ。
「真澄さん。隆太です」
着信に浮かれた隆太の声に真澄は沈黙した。どうしたのかと戸惑い隆太は真澄の言葉を待った。
「楽しかった?」
「はい。先輩も優しい人ばかりでした」
「そう」
真澄の声に翳りが潜む。どうしましたかと聞きたいが、この間も似たような流れがあり、聞いたらますます真澄が嫌がった。
「先輩は今日、何してたんですか?」
「……課題をしてた」
「凄いなあ」
「凄くなんか」
「なんの課題ですか?」
「統計学」
「統計学ってたくさんの人が単位を落とすんですって。だから取らない人も多いって」
真澄さんは凄いな、努力していると隆太は続けるつもりだった。
「先輩とそんなに話したんだ」
「はい」
「じゃあね」
おやすみなさいも言わせて貰えずに通話を切られた。
まただ、と隆太は鈍い憤りを感じる。
高校生の頃と今の真澄は違う。
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