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一
桜が嫌いだ。
美しいなりをしていて、それでいて儚げで。
咲き始めたと思ったらあっという間に満開になって、皆が群がり高嶺の花。
一人でゆっくり見ることすら叶わない。
手を伸ばすも遠のいて、抱きしめても腕からすり抜けるお前みたいで。
散った花びらが水面に浮かんで所在なさげに揺らめく。あの花びらたちは何処へ行くのだろう。
大切な人も桜のように散っていった。
花びらは俺の手に舞ってこなかった。
桜を見ると同じ名前を持つお前を思い出す。
今日も、どこかで桜の花びらが散ってゆく。
あれから、何度目の桜だろうか。
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