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倉庫のある屋敷の裏はただでさえ陰気な雰囲気の漂うこの立地の中でも、何となく近寄りがたいと人に思わせるような暗さがあった。周りに大きな木が何本の生えているので、あまり日が差さない上に雑草は伸び放題で、子供が度胸試しとして忍び込んできそうとルーエは密かに思っていた。
そんな不気味な場所だったから、彼女はそこでセイリーンと思われる後ろ姿を見付けた時に、ほっとしてしまった。
「セイリーン様!スエが木の高い所に登って降りられなくなってしまったようで、早く助けて上げないと、」
「あんな猫の事なんて、今はどうでもいいよ。」
ルーエはここで彼に違和感を覚えた。セイリーンは彼女に対して、スエは家族のような物だと語っていたし、そんな相手が危ない目に遭っているのにどうでもいいと言うなんて信じられなかった。
「ねえ、ルーエ。俺は君が好きなんだ。気が付いていただろう?キスがしたいんだ。黙って目を閉じてよ。」
「あ、あなたは誰?」
反射的にルーエは近寄って来た彼に尋ねてしまった。無神経な時もあるがいつも不器用に気を遣ってくれたセイリーンがこんなに強引に迫って来るなんて激しい違和感があった。
すると、セイリーンの顔がばっくりと真っ二つに割れて、そこから鋭い歯を覗かせた。
「目を閉じている内に終わらせようと思ったが、バレてしまっては仕方がない。このままお嬢さんの事を食べてしまおう。」
その瞬間、ルーエは自分でも気が付かない内に、思いっ切り悲鳴を上げていた。
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