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「な、なんでアンタは私が働く先を探しているのを知って、」
「そんなの簡単だ。先程の酒場に私もいたからだよ。それで、話を聞く気になったのかい?お嬢さん。」
幾らルーエが世間知らずの田舎娘であっても、普通だったらこんな怪しい男の話に耳を傾けない。しかし、今の彼女は普通ではなかった。仕事を失って気持ちが荒んでいたし、何よりも酒が入っていたのだ。
「割の良い勤め先って変な所じゃないでしょうね?」
ルーエはそう言って目の前にいる男を睨みつけた。彼は無精髭を生やしていて、灰色の髪に同じ色の目をしていた。ぱっと見では年齢がよく分らないが大体30歳ぐらいだろうか。とても痩せていて、彼女よりも随分身長が高かった。
「変な所だなんて、とんでもない!ごく普通の勤め先さ。この町の外れにある屋敷でメイドの仕事をしてもらいたいんだ。ああ、なんで自分にその仕事を紹介するんだって顔をしているね。いや、紹介しようと思っていた女の子が別の所で働く事になってしまってね。君の働きぶりは雇い主だったヒナシから聞いていたし、」
「女将さんを知っているんですか?」
ルーエは思わず、驚いて口を挟んでしまった。ヒナシというのは宿屋の女将さんの名前だった。しかし、あの恰幅の良い常識人の彼女と目の前の怪しい男と繋がりがあるとは、とても思えなかった。
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