徒桜

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 誰もいない春休み中の教室。  二人で並んだ机。そっと椅子を引いて、彼の席に座った。  真っ直ぐに、背筋を伸ばす。彼が見ていた景色を、眺めてみる。  隣に座っていたあたしは、思ったよりも視界には入らなかったのかもしれない。  結局、あたしは彼に何も言えなかった。  いつも一歩踏み出す勇気のないあたしに、声をかけてくれた彼。  好きになって良かった。  気持ちは伝えられなかったけれど、ありがとうも言えなかったけど。  立ち上がって、ふと、机の中へ手を入れた。  コツンと指に何かが触れて、取り出す。  消しゴムだ。  一回だけ使った形跡のある角を見て、白い面にはみ出ている黒が気になって、カバーをそっと外した。  ーー頑張れーー  彼の綺麗な字で書かれた一言に、込み上げてくる涙を拭った。 「うん……頑張る……頑張るから」  握りしめた消しゴムを、あたしはずっとずっと大事にしまっておくと決めた。  伝えられなかった気持ちと、最後に勇気を伝えてくれた彼。  真っ直ぐに前を向いて、今度は自分から、ちゃんと言えるように。
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