ペンギン

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 人間とペンギンの付き合いであるが、意外と長い。三万五千年前に我々人間の祖先であるネアンデルタール人が描いたスペインの壁画にペンギンの姿は描かれている。他にはネイティブ・アメリカンの墓からも装飾品として加工された遺骨が発見されている。 このことから、古来より北大西洋を中心として生息していたことは明白であると言えるだろう。  時は流れ……人間は船を使い別の大陸や島へと開拓を行うようになった。15世紀より始まる開拓時代の幕開けである。それがペンギンにとっては終焉へと向かう暗黒時代の幕開けであった。  ペンギンは短い翼故に飛ぶことは出来ないが、泳ぎは堪能である。主食であるニシンやシシャモを捕る為に千メートルをも潜水を成し遂げるのだ。黒く重い嘴に深く刻まれた溝は冷たい海を掘削するドリルを彷彿とさせ、海の中を弾丸特急のように泳ぐ姿に地上をヨチヨチ歩いていた時の愛らしさはない。  だが、先述のように地上ではヨチヨチ歩きで素早く逃げることも出来ない。尚且つ、ペンギンは同種のみで群れを作る動物で、他種との接触は基本は皆無である。  それ故に人間の姿を見かけると「おや、何だろう」と言った感じで、自分より大きな仲間だと思い好奇心から近づいてくるのだ。つまり、狩るのは容易いのである。  開拓時代の人間からすれば、ペンギンは単なる獲物。開拓航海中の食料に始まり、羽毛は寝具や防寒具として取引されるようになってしまった。  ペンギンは人間によって容赦なく殺され続けた。運良く、人間の魔の手から逃れた個体も、人間の船から降りたドブネズミによって狩られてしまう。こうして数を減らし続けて250年が経過した18世紀過ぎには数を僅かに残すだけの希少生物となってしまうのであった……  希少生物ともなれば、欲しがる者は塵芥のように湧いてくるもの。コレクターや博物館が剥製や骨格標本や卵標本を欲しがるようになった。中には高値で買い取る者も出てきたと言う。 それがペンギンの絶滅を導くことになるとは、彼らは露ほども知る筈がない。
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