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永遠の「今日」へ。6
子供たちを両親に預けて来たから、最後まではいられないんだ、と。
半分以上中身の残っている煙草を、箱ごとくれた。
帰る前に話せて良かった。
嬉しそうに笑っていた。
私だって笑えていた。
彼は、あんな何もない、田んぼばっかりの町で、唯一の頼りであるかのような会社に勤めて。
家族を愛して、家族に愛されて、生きていた。
贅沢もしていないし、誰かを騙したり非道な真似を平気で行ったり、人の道から外れるようなことは何一つしたことがなかっただろう。
ー だけど、悪だと責め立てられ、それでも捨て置けずに身を粉にして徹夜してさんざんな環境で、逃げ出すわけには行かないと。
「戦い続けたんだけどなあ…」
ー まさか、そんな、彼はすごく強い人なのだと、思っていたのに。
今ある何もかもは永遠に壊れたりしないと信じて、穏やかで平和な生活を送っていた。
もちろんあの町の人々だけではなくて、きっと誰もがそうだった。
まだ、私は知らない。
まだ、彼は幸せの中にいた。
2本目を唇に挟み火をつけた私を置いて、彼は店へと先に戻る。
私も、疑ったりしたことなかった。
生きているだけで。
この町で生まれ育ったことさえも、罪だったなんて。
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