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それに。姫様は一国の姫だ。いつ輿入れが決まってもおかしくない。
叶うことならずっとおそばにいたい。だけどそれは無理な話。
ならばお側にいられる間に、大切で大好きな姫様に思い出を作って差し上げたい。
あわよくば心の片隅にでも私の事を覚えていてくれたら、なんて大それた望みは私の胸の内に秘めておく。
「さあ、桜の傍に。」
どうぞお進み下さいませ。
そして姫様の願いを、思いを叶えてくださいませ。
姫様の足が舞台に向かう。それに合わせて桜の周りにいた仲間たちが此方にくる。私は姫様の後ろを静かについていく。
姫様が階段に足を掛けるのを手伝いながら一歩下がった。ここからは姫様の舞台だ。
舞台に上がると姫様が桜に触れた。
愛おしそうに数度撫でると、帯に挿していた舞扇を取り出した。
女中頭が朗々と唄い始めると姫様が扇をひらりと広げた。
桜の下で踊る姫様はまさに桜の精。その名の通り桜姫だ。
その場にいる人間はすべからく姫様に見とれて……見とれすぎて……忘れていた。
彼女は雨降り姫だ。
案の定しばらくすると外で風がうなり始めた。大丈夫。大丈夫だよきっと。
猛烈な勢いで雨が降ってきた。まだ大丈夫、大丈夫だって。
それが起きたのは丁度姫様が舞終わった時。
ぽ ちゃん
ぽちゃん?
突然、舞台に大きな水たまりが出来た。慌てて天井を見ると。
げええええええ!
「板が一枚飛んでる!」
「姫様ーーーーー!」
「きゃーーー!!」
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