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その辺を散歩する程度なら特に問題ないが、側に寄って触れようとすると天気が崩れる。
特に桜はテキメンだ。一昨年は木に雷が落ちた。去年は桜の木に体を向けた途端、みぞれが降ってきた。傘も間に合わず姫様はずぶ濡れになり、熱まで出された。
思い出しても胃が痛くなる。
『もう外には行かない!』
そう宣言されたのが熱が引いた三日後。なんとか宥めてその後も外には出て頂いた。だって引きこもっていたら不健康じゃないか。
それに城下の人間たちは可愛らしい姫様をひと目見たいと常に願っているんだから。
だが冬が明ける頃、桜の枝が銀色に輝き出すと姫様は城に籠もってしまった。蕾が膨らみだすと部屋から出てこなくなった。
恐ろしいことに笑顔まで消えてしまった。
だけど。私だけは知っている。姫様の本当の思いを。
姫様が熱を出して寝込んでいた時のこと。私は隣の部屋で寝ずの番をしていた。
その時、うわ言とも寝言ともつかない声が聞こえてきた。無作法だとは思ったが、姫様が心配だった私は部屋の障子を開けた。
姫様は眠りながら眦から涙を零していた。
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