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音を立てないようにして姫様に近づき、そっと涙を拭った。落ちかかっていた手ぬぐいを洗い直して姫様の額に乗せるといきなり姫様が私の腕を掴んだ。
しまった、と思ったが既に遅く。姫様がまぶたを持ち上げた。固まる私に向かって姫様がぼそりと呟いた。
「一度でいいから……花の下で舞ってみたい……」
それだけ言うと再びまぶたが塞がり、私の腕を掴んでいた手がパタリと落ちた。
布団に姫様の手を仕舞い、入ってきたときと同じように音を立てずに部屋を出た。
既に庭の桜はほぼ花びらを落として代わりに青い葉を出し始めていた。
姫様の願いを叶えてあげたい。
月明かりの元、私は心の底から思った。
それから三日三晩考えた。
どうしたらいい?雨降り姫が桜の下で舞うには。
姫様のお体が回復してからもそればかり考えて、他のことは上の空。
あれやこれやと失敗を繰り返す私に腹を据えかねた女中頭から一週間登城禁止を言い渡された。
家に戻っても思案に明け暮れ自室に籠もりっぱなしの私にとうとう母がキレた。
耳を鷲掴みにされ、暇してるんなら付き合えと連れ出された。
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