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大好きだ、雨降り姫様……。
心の声を漏らさないように注意しながら姫様の手を取った。
「申し訳ございませぬ。お叱りは後で受けます故、とりあえず中にお入りください。」
そう言って姫様を小屋の中に引き入れた。
「どうぞ。」
暖簾をくぐって中に入った姫様はその場に立ちすくんだ。
物見櫓ほどの高さがある建物の中、数多のぼんぼりに照らされて優美に佇む枝垂れ桜。桜の足元には浮き舞台が取り付けてある。
昼の艶やかさとは一味違う、静けさと妖艶さに包まれた桜の花にすっかり魅入られたようだった。
「つい半時ほど前に屋根の取り付けが終わりました。多少の雨風は問題ございません。桜も丁度見頃を迎えました。」
根回しが上手くいったにしても、桜という木は非常に繊細で厄介だ。病気にもかかりやすく移植はかなり神経を使う。夜中まで土を耕し、石を取り除いた。
移植後の手入れは誰の手も借りず私だけで行った。
花の下で姫様が舞いやすいよう板張りの舞台も作った。
実際のところ根が張り切るのに一年では難しい。それでも挑戦したかった。
だってこのままでは姫様の心が折れてしまう。これ以上姫様の笑顔が消えてしまうのは私が許せない。
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