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事前
──二宮時生の控え室
二宮時生は、都筑翼と大場三郎太の試合映像を眺めていた。そこに美貌の女性、セコンドの北村翠が声をかけた。
「一回戦見事な勝利ね!、おめでとう!」
「ありがとう、これも北村さんの分析のおかげだ」
「あなたの実力よ、攻めて攻めて、相手が我慢できなくなったところで得意の剣でしっかりと仕留めた、見事よ」
「うん、しかし、問題はこの二回戦の相手だ」
「西東京代表の女子高生剣士ね」
北村翠は、都筑翼の西東京大会の試合映像をモニターに映し出した。
「この高校生はどういう相手なんだ?」
「正統派よね、正統派剣道女子って感じ」
「VR剣闘は力(パワー)の調整が効いているから女が勝ち上がっていけるのはいいが、高校生でも代表になれるなんていうのはな・・、逆不平等だ」
「それでもこの子は強いわ、剣が疾い、防御もできる──今日の一回戦の相手より強いかもね」
二宮時生は都筑翼の西東京大会準決勝の試合映像を見た。相手は三田龍子という女性剣士。
三田龍子が間合いをゆっくりと詰めた。
都筑翼は、後ろに下がるわけでもなく、足を横に出し、半円を描くように横に移動し、三田龍子との距離を保った。
三田龍子も、体を横に傾け、ゆっくりと都筑翼との距離を詰める。三田龍子と都筑翼は円を描くように、歩みながら距離を保った。
刹那。三田龍子が剣に打って出た!
都筑翼は剣で守り、瞬間に左と右の手首を返し、切り返しの面(切り返しの剣)で三田龍子の頭を打った!
防御からの一瞬の転換の剣で都筑翼は三田龍子を屠った!
「この女の子は、本物の力を持っているということか?」二宮時生は言った。
「そうね」
「では、どう戦えばいいものか・・」
「ふふ、そこは女の子だから弱点はあるかも」北村翠は微笑んでそう言った。
──都筑翼の控え室
俺はひたすら二宮時生の試合を分析した。しかし、、よく考えなくても俺は剣の素人だ。・・なにもわからない。
「翼、この二宮時生ってすごく強いんだよな?」
「そうだな、強い」
「福島県大会はほとんど完勝だけど、天空剣闘場大会一回戦は3ラウンドまでもつれ込んでいるからこれは苦戦していることになるのかな?」
「そうだな」
「ずっと攻撃して、左からも右からも攻撃、最後は距離を取ろうとして後ろに跳んだ相手に後追いで跳びかかり下段から上段の剣か・・」
「スピードも速い」
「うーん、3ラウンドまで闘うってどういうことなのかな?、翼がかんたんに勝っちゃたからそこもわからねーよ」
「……。」
煮詰まっていたので、俺と翼は分析をやめて、今行われている試合中継を観戦した。
試合は、鹿児島県代表の桐本雄一と東東京代表の浅野レナの対戦だった。しかも桐本雄一は前大会ベスト8、浅野レナは前大会準決勝進出と一回戦屈指の好カードと試合中継で説明された。浅野レナはこの大会のスター選手で、応援する観客の数もすごいものだった。翼の試合の時、すでに満員の観客と思っていたがそうでなかった。浅野レナの試合の観客席は観客と観客の間が存在せず、観客たちは密着状態で声援を送った。浅野レナの服装は古代の西洋鎧を身に纏っているが、そのデザインは昔の紙小説のようで鎧の下部はミニスカートになっていて、太腿が露だった。細く長い美脚が尚目立った。
「見て、あの桐本雄一の構え、旧南佐津の剣だよ」
翼は、桐本雄一の剣の構えに注目した。翼が言うには、旧南佐津の剣は必殺剣、一撃でしとめること前提の大きな上段の構えなのだそうだ。
「この試合、桐本雄一の一太刀目で大きく勝負がわかるよ」翼は手に汗を握りながら言った。
刹那。桐本雄一の剣が振り下ろされた! 浅野レナは右足を前に、進みかわした。
「まさか!、剣で受けずにかわすなんて!?」翼は叫んだ。
桐本雄一の剣を前にかわした浅野レナは、剣を振り上げた。桐本雄一は不恰好に転んだ。
「・・翼、なにが起きたんだ?」
「浅野レナが必殺の剣を受けずにかわしたんだよ!、受ければまともに受けられず2番目の剣にやられる、いや!受けることもできずに一本が決まる可能性も高かった!」
「・・・。・・そうか」
「桐本雄一は必殺の剣で体が全部飛んでいるから浅野レナの反撃をかわすために体全体で転んで距離を取ったんだ!」
「・・なるほど、すごい勝負だったんだ」
翼は、桐本雄一と浅野レナの勝負に大興奮で観戦した。俺はさっぱりわからずのままだった。なんだろう他人の試合って、、・・そんなにおもしろくない。。
翼は、他の試合も目をきらきらさせながら観戦した。各試合にはそれぞれ剣士でしかわからない、間や導線や琴線があるのだろう。目をきらきらさせた翼のその横顔は無邪気なティーンエイジそのままだった。俺は翼があまりに試合に熱心なので、翼のオレンジジュースの替えを入れて、チョコレートを用意してあげて、翼の目を盗んでビールを飲んだ。
思った。俺も俺だけど翼も翼だ。翼はなんで剣の素人の俺にセコンドを頼んだのだろう?、よく考えればそれが一番の謎だ。
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