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二人
遥か21世紀。
天才エンジニアの俺(高見沢コウ)は今日も励んでいた。
世界の管理を人間ではなくコンピューターが行うようになってから数年、人間は肉体労働から解放されたものの、その膨大な旧肉体労働を担うロボットには、日々小さなバグから大きなバグが発生し、それを俺のような天才エンジニアが修正しなければいけなかったからだ。
オソイ! オソイ! コウ! オソイ! キーー! ボッボ!!
まったくうるさいAIだ。コンピューターのくせに人間より偉いと思っている。
ピンポーーン♪
宅配ドローンが荷物を届けに来たようだ。俺は玄関のドアを開けた。
するとそこに、学生服姿の長い黒髪の美少女が立っていた。
「………。」
「あの・・、高見沢コウさんですよね?」
「……そうですが」
「あの・・、お願いしたいことがあるんです!」
彼女は真剣なまなざしで言った。
「わたしと一緒に戦ってください!!」
「わかった! いいよ!」
「ありがとうございます!」
彼女はきらめく笑顔を俺に魅せた。
これは、古き時代の紙小説にあるロマンスだ。学校一最底辺の少年が学校に行こうと玄関のドアを開けた瞬間、学校一の美少女から告白され、甘々な同棲生活が始まるとか、さえない会社員が(昔は勤務先に歩いて通い仕事をしていたらしい)勤務先に行くために道を歩いていると、美少女とは正反対の短いスカートの卑らしさをたたえた不良少女と肩がぶつかって、それに文句を言うと彼女が泣きだし、実は帰る家がないということがわかり同棲が始まる。いやらしさで巻き起こる中のエロティシズムと純潔とか。
彼女は俺の顔を見て、困った顔をしていた。
「うん?、ちょっと待って……君は俺のことが好きで俺と同棲したいんだよね?」
「わたしはあなたのことは好きかはわかりませんが、あなたに一緒に戦ってもらいたいのです」
「戦うって…… 痛そうくない……??」
*
俺は彼女に話を聞いた。
彼女の名は、都筑翼(つづきつばさ)。VR剣闘世界の西東京代表の剣士だった。
VR剣闘世界の剣士……。
21世紀(現在)。VR仮想現実が脳波と連動し、脳波コントロールができるようになったことと、世界のすべての管理をコンピューターが行うことが重なった時(とき)を起点に、人間の享楽は仮想現実の中で行われることが主流となった。自分が英雄や勇者になる物語を仮想現実の中で経験するなどなど。しかし、そんなお手軽な幻想に人間は簡単に飽きてしまい、やがて思考を停止することが流行り、自らが主体験になるのではなく、自らは傍観者として享楽を体験することが一般化した。これが天空剣闘場の誕生だ。
天空剣闘場では、一対一、或いは三対三で、「剣」を持った人と人が、「剣」で勝敗を決める。まったく先の読めない「剣」と「剣」のドラマが繰り広げられ、この戦いにすべての人間が歓喜したのだった。
この天空剣闘場の戦いまでには歴史があった。VR仮想現実の中でなんでもできるようになり、銃やレーザー光線で戦うことが行われた時期もあった。しかし、銃の対決は一瞬過ぎて、また緻密すぎておもしろみがない。だからすぐに廃れた。そして、剣闘の前身となったのが、パワーレスリングというスポーツで自らの肉体と肉体を駆使して戦い、それをVR仮想現実の中に反映させるものだった。しかし、このパワーレスリングも、結論、体が大きい人間が勝つだけの雑な戦いがほとんどで、ある時から急速に人気を失っていった。
このパワーレスリングの人気低下に歯止めをかけるべく、運営側は選手の能力の仮想現実世界での調整を行い、人間の体格差と力強さ(パワー)を均一化した。これにより、パワーレスリングでは力強さ(パワー)の似通った人間が脳波の鋭さ、瞬発能力の強さで勝つようになり、戦いもスリリングになった。そして、この改良は続き、パワーレスリングの運営者たちは剣士の大会をも始めた。──これが現在(いま)にまで続く、天空剣闘場での大会だ。
天空剣闘場での大会。
ここでは、剣と剣の戦いはショーアップに演出された。剣士が剣を振ると光の風が巻き起こり、それは剣の鋭さに比例する。この見た目のわかりやすさとスリリングが、他の格闘大会と一線を画し、現在(いま)ではVR仮想現実世界の中で行われる格闘技の大会は、この剣闘だけとなった。
次に変化が生じた──。
当初、人間の体格差と力強さ(パワー)を均一化するために行われた調整は、その趣旨は体格のただ大きいだけの人間・背が高いだけの人間の力強さ(パワー)を均一化するという趣旨だったが、この均一化がなされた時、次の現象が起こった。
それはカーレースから始まり、アーチェリー、弓術、そして剣闘に。その各分野で女性が男性を次々と打ち破り、またそれが繰り返された。現在(いま)ではVR剣闘世界の選手の半分は女性剣士だった。
そのVR剣闘世界の全国大会、西東京代表の剣士が今、俺の目の前に立っている都筑翼だ。
「ね、翼さん、俺に一緒に戦ってほしいって、俺はなにするの?」
「わたしのセコンドをお願いしたいのです……」
あ、セコンドなのか、そういうことか…。
「お願いします!」
そう言って、都筑翼は深々と頭を下げた。
「わかった、…いいよ」
「ありがとうございます!」
またも彼女はきらめく笑顔を俺に魅せた。
でも…… 戦うって…… 痛そうくない……???
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