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「お帰りなさいませ、蒼様」
マンションの入り口に着くと、制服を着た初老の男性がにこやかな笑顔でドアを開けてくれ、蒼さんは「山崎さん、いつもありがとうございます。彼女は小沢さん」と私を紹介した。
「小沢様、私ドアマンの山崎と申します、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ドアを通り抜けると、そこは広いホールだった。無機質な外観とは対照的に、クラシカルであたたかみのある空間が印象的だ。
えんじ色のじゅうたんが敷かれた床、天井の中央には、青いステンドグラスを用いた大きなシャンデリア。適度な感覚で配置されたビロード張りのソファ。フロントには感じのいい男性と女性がいて、また声をかけられ、紹介と挨拶。彼と彼女の名前は、戸塚さんと船坂さん。
このマンション、まるでホテルみたいだ。
驚きはまだ続く。
エレベーターで望月さんが押したボタンは。
「PH?」
「ペントハウス」
「ペントハウス!? ……ドラマの中だけかと思っていました。実在するんですね」
「するよ。でも言っておくけど、狭いから」
蒼さんは笑った。
「1LDKしかない。ペントハウス二戸のうち一戸は広く、もう一戸は狭く作られて、それがここ。どうぞ」
チン、とエレベーターのベルが鳴って降りるとそこは小さなホールで、蒼さんは言い訳するような口調で付け足すと、目の前のドアを開け、私を招き入れた。
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