4258人が本棚に入れています
本棚に追加
玄関に入ると、その先には廊下が前方に伸びている。そのさらに先のドアの向こうは――。
「きれい」
蒼さんに案内されてリビングダイニングに足を踏み入れた私は、予想もしなかった景色に息を吞んだ。
壁一面の窓に広がる真っ青な空を、飛行機がゆっくりと横切っていく。その下方には東京湾。
「気に入ったなら、よかった」
「狭いって言ったけど、広すぎるように見えます」
リビングダイニングだけで、二十畳くらいありそうだ。
白・グレー・黒で統一された室内はシンプルで、蒼さんらしい。
「まあ、一人で住むには広いか。あそこが仕事をする場所」
リビングの一角の本棚で区切られた所をのぞくと机があり、パソコン、そして積み重なった資料とペンが置いてある。本は開きっぱなした。きっと今朝も仕事をしていたのだろう。
窓と反対側には、アイランドキッチン。広いカウンターと一体化していて、スツールに座って食事をとれるようになっている。
「バスルームは廊下で、寝室はこのドアの向こう」
蒼さんはこつんと左側の壁のドアを叩くと、後ろから私を抱きしめ、覆いかぶさるようにしてキスをした。もうだいぶ慣れたけど、それでもどきどきする。上唇、次に下唇を吸ってゆっくりと弄ぶようにしてから、私の身体の向きを変えて自分の方を向かせ、今度は深く、深く口づけをする。
こうされると頭がぼうっとなって、体の奥で何かがうずく感じがする。
次第にそのもどかしさに耐え難くなり、私は蒼さんのシャツをぎゅっと握った。細身だけれどしっかりした胸。
「それ」
唇が離れる。
「何?」
「シャツを掴む仕草。最高にかわいい。理性が飛ぶ」
「……いいですよ、飛んでも」
怖いけど、覚悟はできている。
「そうか――朋花」
蒼さんは、優しいまなざしで私を見つめた。そして小さく息を吸って吐くと、言った。
「結婚してくれないか」
最初のコメントを投稿しよう!