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どれくらい時間がたっただろう。
蒼さんの腕の中で目を覚ますと、また優しくキスをされた。
「痛みは?」
心配そうな表情。
「……大丈夫です」
じんわりとした熱のようなものは残っているけれど、もう痛くはない。
「そうか。よかった」
蒼さんは、両腕で私を抱きしめた。
「これからのことだけど――再来週、朋花のお母さんにご挨拶に行こう。俺の実家にはその後で」
蒼さんの言葉に、ふっと、小さな影が心をよぎった。
「ご両親、私が母子家庭でも気になさらないでしょうか」
蒼さんにはすでに家庭の事情を話してあって、特に気にする様子もなかったけれど、ご両親は違うかもしれない。
「大丈夫。朋花は何も心配しなくていい」
父が亡くなったのは、突然だった。
雪道でスリップ事故を起こしたのだ。大きな外傷はなかったが打ちどころが悪く、そのまま帰らぬ人となった。
母は気丈だった。
もちろん当初は悲しみに暮れていたが、それでも、私にはできるだけ笑顔を見せて安心させようとしてくれたし、四十九日が開けると、以前勤めていたホテルで働き始めた。
「蒼さんのご両親は、どんな方たちですか?」
一人息子だというのは知っていたが、詳しいことを聞く機会はこれまでなかった。
「母は主婦。父は――望月雄一郎って知ってる? たまに情報番組にコメンテーターで出演してる」
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