8.初めて

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 もちろん知っている。豪快なキャラと鋭いコメントで人気のおじさんだ。本業はたしか、建設会社の社長。 「まさか」 「そう、俺の父親。コメンテーターは副業で、本業は望月建設の四代目社長。朋花、ここに連れてきたら気付くかな? と思ったんだけど。いくら高給取りの弁護士でも、この年齢でペントハウスはないだろう」  蒼さんは私の髪を弄びながら、楽しそうに笑った。 「でも全然だったな。そういうところがいいんだけど。父の会社はそれなりに大きくて、建設業の他に都市開発もやってる。俺の勤め先が入ってる望月ビルとその周辺の開発は父が手がけたプロジェクトだ。ちなみにこのマンションを設計したのは、三代目の祖父。この部屋が狭いのは、子供が独立後に老夫婦二人で快適に住めるように、と考えた結果――朋花、目が真ん丸。そんなに驚くなよ。なんだか気恥ずかしい」  腕枕されている私の顔に視線を向けた蒼さんは、戸惑ったような笑みを浮かべた。 「蒼さんはお父様の会社、継がないんですか?」 「……どうかな。そのつもりで建築学科は出たけど、親の敷いたレールそのままっていうのも違和感があって。それで弁護士になった」 「反対、されませんでした?」 「それほどは。俺は昔からしたいようにする性格だから、とりあえず好きにさせておこうと思ったんじゃない? それに父はまだまだ元気で、もし俺が継ぐとしても十年以上先だろうし。さっきの話に戻るけど、俺が一番大切なのは朋花だ。もし万が一反対されたら、迷わず朋花を選ぶ。だから心配するな」  嬉しかった。そして心の中で誓った。  私は、蒼さんに最善となる道を選ぼう。
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