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今日は久々の晴天で、双子はきゃっきゃと声を立てながらベビーカーに乗っている。
「晴斗さん、本当にありがとうございます」
「どういたしまして。でも俺こそ、ありがたいと思ってるんだ。朋花ちゃんたちが母と一緒に住んでくれて。おかげで、父がいなくても母は寂しくないし、俺も安心して海外で仕事ができる。でも、いい相手が見つかったら、母のことは気にせず結婚しなよ」
「え?」
「朋花ちゃんなら、またいい出会いがあるんじゃないかと、俺は思う」
ベリーショートの金髪に鋭い眼光、ストリート系のファッションというちょっと悪そうな外見の晴斗さんは、すごく繊細な気遣いのある人だ。
「……ありがとうございます。でも、私はもう結婚しません。だからご迷惑にならない限りは、温子さんのお宅にご厄介になります」
そう決めて、二人を産んだのだ。
「もしかして、まだ双子の父親のことが忘れられない?」
私はうなずいた。
「とても好きでした」
「じゃあ、なぜ別れた?」
「――もし私と結婚したら、その男性の運命を変えてしまいそうで、それが怖かったんです」
「――そっか」
そう言ったきり晴斗さんは黙ってしまったので、私も黙ってベビーカーを押した。双子はさっきからご機嫌で、今は、向こうからやって来るゴールデンレトリバーを指さし、
「ままー、わんわん!」
「はるとしゃんー、いぬー」
と騒いでいる。隣を見ると、晴斗さんの横顔には笑顔が浮かんでいて、こういう表情の時はちっとも「悪そう」じゃないんだよな、と私は思った。温子さんは品のある美人で、晴斗さんもその容貌を受け継いでいるのだ。
「あのさ」
こちらを向いた晴斗さんと目が合った。
「はい?」
「俺だったら、好きな女に運命狂わされたら嬉しいかも」
「え?」
「そいつも、朋花ちゃんのために運命が変わっても、本望だったんじゃないかって俺は思う。いや、同じ男でも考え方は違うかもしれないけど」
そうだろうか。
「まあ、ともかく朋花ちゃんはかっこいいよ。貫いてる感がある。その男に対する気持ちを。でも、相手は子どものことを知らないんだろ? なんだか腹が立つ。どんな奴だよ、そいつ。あ、これは答えなくていいけど」
「すみません……」
「いや、いいんだ。こっちこそごめん」
その話題はそれきりで、やがて私たちは病院に着いた。
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