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11.双子のイヤイヤ
暑かった夏がようやく過ぎ、街に金木犀の香りが漂った翌日。
「くちゅんっ」
かわいいくしゃみの音で目が覚めた。
横に並んで寝ている双子を見ると、真帆が目を開けている。切れ長の涼し気な目元は、蒼さんにそっくりだ。
「真帆?」
「ちゅんっ」
まるで返事をするかのようなくしゃみがかわいくて笑ってしまったが、のん気に構えてはいられない。
「はくちゅっ」
理帆まで。
二人とも、鼻水が出ている。
熱を測ると37・5度。
まずい。病院に連れて行かなくては。仕事にはどのくらい遅刻することになるだろう――イレギュラーな事態のあれこれが頭を駆け巡る。
「私が連れて行こうか? N総合病院でいいんでしょう?」
朝食時、双子が風邪をひいたと知った温子さんは、病院へ連れて行くと申し出てくれた。
双子は未熟児だったせいか気管支が弱く、熱のある時は念のため、生まれた病院に行くことにしている。
「いいんでしょうか」
こういうことは初めてではなく、つい、甘えてしまう。
「もちろん。晴斗が向こうに戻って暇になったし。お礼はそうね、帰りにフリージアのレモンパイでどう?」
この街で評判のパティスリーのケーキは温子さんの大好物。こうして「お礼」として要求するのは、私に余計な気を遣わせないためで、その気持ちが本当にありがたい。クッキーも付けよう。
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