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それからは、和やかな夕食の時間だった。
みんなでちらし寿司を食べ、大人三人は日本酒で乾杯。
私が一日かけて別れの手紙を書いたのは、一体何だったんだろう……。
「朋花の考えは、わかってるよ。俺の予想では、瑤子に身を引くよう言われたんだろう」
蒼さんは私たちの部屋で、眠ってしまった双子に布団を掛けてやりながら言った。温子さんはお風呂だ。
「……すみません」
「いや、謝るのは俺の方だ。瑤子のこと、気付かずにいてすまなかった。それにしても朋花、頑固というか、意思が強いよな」
「……ごめんなさい」
「謝らなくていい。だけどこれからは、その意志の強さを俺を支えることにも使って欲しい」
「え?」
「結婚してくれ」
「でも――」
「心配しなくていい。両親にも認めさせたから」
「ほんとに?」
「ああ。社長を継ぐとき、条件を出したんだ。もし敵対的買収をされることになったとして、その時に俺が伊吹グループの助けを借りずに切り抜けられたら、朋花との結婚を認めて欲しい、と」
息が止まるかと思った。
「朋花?」
「ごめんなさい、あの、びっくりして――」
「呪いは俺が解くって言っただろ」
蒼さんが笑う。
そして私は――涙があふれるように流れた。
蒼さんが私を抱きしめ、頭をぽんぽんとしてくれた。久しぶりだ、この胸の暖かさ。でも。
「蒼さ――だめ、スーツ……濡れ――」
声にならない。
また蒼さんが笑う。
「いいよ、別に。クリーニングに出すから気にするな。朋花の涙で思う存分濡らして――って、なんか変な台詞だな。好きだ――朋花。愛してる」
蒼さんは何度もキスをし、その合間にまた囁いた。
「俺と結婚して欲しい」
「――はい」
私が答えると蒼さんはキスを止め、私をぎゅっと抱きしめた。そうして言った。
「もう一生、離さない」
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