絶望

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絶望

「なるほど、最終手段はこれですか」 目の前の布団を見て思わず呟く。 疾風に連れられ哉彌の寝室に来てみれば、部屋の中央に一式の布団と枕が二つ。 「まだ色恋で縛ろうと?」 疾風に布団の中央に下ろされながら部屋の端で立っていた哉彌に訊く。 「それはそれ、これはこれだ。」 「冗談です。確かに、最終手段としてこれはありですね。ですが、術式が違うようですが」 布団を囲むように置かれた札に描かれた円は見覚えがあるものと少し違う。 最終手段として考えられるのはあの地下での術式だ。一切の身動きを封じて、延命させる。いつかはこの手を使うと思ってはいたけれど。 「お前の夢を覗き見ていたものがいたのなら俺にも見れるだろうと」 「見たいのですか?」 哉彌は隣に腰を下ろし、手を握る。 「お前がいう破滅がどんなものか知る必要があるからな」 それを阻止する為に必要ならということか。 私の頭を枕に押し付けて、哉彌は掌で覆い瞼を閉じさせる。 「...分かりました。ですが、覚悟してください。私が見せるのは紛れもなく未来、揺るぎなくやってくる絶望です。」 そう言うと深い闇へと落ちていく。 星すら消えた漆黒はやがて赤く染められて ヒラヒラと舞う灰と火花に覆われる。 よりにもよって...。 と、心の中で皮肉に思う。 見渡す限りの焼け野原。 崩れた建物の間に人影がある。 四肢を裂かれ、炎に飲まれるでもなく地面に伏した姿。赤い血潮に揺れながら息絶えているのは疾風だ。 彼にやられたのだろう。 その姿を出来るだけ写さないよう他の景色に視界を向ける。 天まで焦がす炎はあちらこちらで上がっていて、昼のように明るかった。 遠くの方に倒れた人影を見つけ足を向ける。 ぎしぎしと軋む骨が痛みを増す。 息苦しさも前よりひどい。 それでも、たどり着かなければ。 瓦礫に寄り掛かるように眠っていた彼の元に近づいて膝をつく。 血と泥、灰にまみれた哉彌の顔は生気が無く青白い。 身体中の震えを抑えたくても抑えきれない。 声にもならず喉が震えた。 分かっていた。全て変えられないことも、何度も見てきたからわかっているのに。 「こんなことを望んでいたわけじゃない」 心からの懺悔に、絶望は背後から声をかけた。 「これがお前の望みだろう?」 「!」 振り向くのと同時に片手で顔を掴まれた。 目を覆われ、姿が見えないが間違いない。 彼だ。 「離して」 掲げられた腕を掴んで爪を立てるがびくともせず、彼は耳元で卑しく嗤う。 「君がもたもたしているから、みんな味わわなくて済んだ苦痛の中で、もがき苦しんで死んでいった。可愛そうに」 「...私は」 「彼を選んだ君の失態だよ。せめて早く死んでいたらこんな目に合わなかっただろう」 「っ?!」 耳を、ちぎられた。 叫んでも、懇願しても、彼は皮膚を裂いていく。 痛い。怖い。嫌だ。 叫んでも、叫んでも、彼はやめない。 「なかなか死ねないというのはつらいだろう?痛みも苦しみも簡単には消えない。君には気の毒だが、どうせならばこれでもかというほどなぶり殺された方があれの怒りも凄まじいだろうから。」 「...うっ、もう、やめ」 血と共に溢れた願いはけして、聞き入れやしない。わかっていても、恐怖に縛られる。 「お願い、.もぅ..や」 ボタボタと落下する体液に私の声は掻き消される。溢れ落ちる嘆きを掬い上げるように、彼は優しく甘く耳元で囁いた。 「こんな目には二度と合いたくないだろう」 それは呪詛のように、心を蝕む。 「それなら」 毒のように、甘い。 「今すぐ、死になさい」
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