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驚いた。
正直な感想はその一言。
互いに目を見開いて口元が緩む。
身体中見ておきながらそんなことを思ってしまったのは一気に女性らしさを感じたからだろう。
相変わらず抱き上げれば軽すぎる痩せた身体にくすぐったいような甘い香りがする。
車まで露理を運んでいる最中もいつもにも増して横顔に目が惹かれる。
化粧でこんなに変わるのならもっと早く直に世話を頼んでやればよかった。
そうとはいかないのは重々わかっていたが、ふとそんなことを思った。
眠り姫として施されていた術の痕跡、彼女の力の一つである異能の強化は異様な程の作用範囲を広げている。
彼女の意思に関係なく、今では屋敷内を越え結界がなければ敷地である山全体を囲ってしまう。
普通に考えればあり得ない。
何かしら術を施されているのではないか、そう思ったが成果は否。
肉体が弱ったため周囲へと流れ出ている。
これならば身体が回復したらその力も自力で押さえられる筈と踏んだ。
他の者にこれの体を調べさせるわけにもいかないから自分が面倒をみた。
最悪の場合、それを止めるのも自分しか出来ないだろうとも思った。
けれど。
初めて着飾った彼女を見てそこまで考えてやってもよかったと後悔する。
自分ではせいぜいやれて髪を解かすぐらいだったから。
「屋敷の外に行くのですか?」
車に載せると珍しく落ち着きを無くしてキョロキョロと見回している。
走り出した景色に手を添えて車窓を覗き込む。
「行ってみたいところはあるか?」
「は、はい?」
会合中に死なれては困るから短い間でも繋ぎ止める理由が必要だった。
あの反応から土産を期待して待っていてくれるとは思うが、安心は出来ない。
「自分の目で見たいと思ったところはないのか?」
「...えと、そうですね。急すぎて、すぐにここというのは」
確かに、前もって言っていたらちゃんと考えられたかもしれない。
「...海。」
やがてぽつりと呟いたかと思えば勢いよく振り向き言った。
「海が、見てみたいです。」
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