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哉彌の寝室は静かだった。
結界を張っているからかもしれない。外部と切り離され、物音一つせず、とても静かで耳が痛いほど。
「...なぜ、鬼頭会と呼ばれるのか。なぜ本部が京都にあるのか、ご存じですか」
独り言のように、ぽつりと呟いた。
哉彌の顔を見ることもなく、瞼を伏せる。
冷静に告げるは真実でけしておとぎ話ではない。
「中央部は東京にあり、歴代会合は東京にて催されます。それは、本部でありながら人を寄せ付けないためなのです。
あそこには、鬼頭会の名の由来である鬼の首が封じられています。その昔、源頼光らに討たれ、初代柱達が四肢散在にて封じた鬼。最凶であり災厄を起こしたそれを酒呑童子と人は呼びます。
そして、私はその鬼の子。封印の礎の一つとしてただひたすら眠ることを定めとされた者です。」
顔を上げ哉彌を見る。
その顔にはやはり怪訝な表情が伺える。
「私は憎むべき敵なのです。そして、もうすぐ死ぬことで厄災である父を目覚めさせてしまう。破滅への鍵です」
口許が震える。
それを抑えるために笑ってみせた。
永い永い年月で、もはや封印は意味を持たない。二十年かけて作り上げた結芽を外に放った私にはもう力がほとんど無い。
体がもうもたないのだ。
どうしたって、災厄は免れない。
「...それで」
哉彌は続きを促す。
相変わらずの冷たくよく響く声音に、眉間の皺。
「私の話しは以上です。
あなたが殺してくださらなくとも、近いうちに厄災は起こります。おそらくその前に彼が来て殺すでしょうが。結果はみえているのです。」
「だからなんだ。ただ指を咥えて死ぬのを待てと言いたいのか」
珍しく声に苛立ちが取れる。
そうだろう。哉彌様は哉彌様のやりたいようにする。私が何を言おうが、大人しく逃げることもじっと事が過ぎるのを待つ方ではない。
「いえ、あなたは最後まで足掻いて下さい。足掻いて、もがいて、最後まで生きて下さい。痛みに耐え、苦しみにもがきながらもどうか、諦めずに」
そう言うのが精一杯だった。
これは、私が出来る今度こそ最後の抗いだ。
『こんな目には二度と合いたくないだろう』
夢でのあれは、偶然ではない。
あの男が私の夢に干渉してきた。
覗き見るだけでなく。
一体いつから。
あの男が私の夢にどれほど前から干渉していたのか、それはわからない。
けれど、気に留めるべきは変わったという事実。
その事実が、必ず未来を変える一手になる。
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