三妖

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「で、なぜあやかしがあやかしを襲う」 「俺らをこんな雑魚と一緒にされるのは心外だぜ、人間」 ある程度遊んで気が済んだのか、それとも苛立ちを抑えるためか猫が毛繕いをしているのをつまらなさそうに頭上で腕組みしながら足軽は言った。 「俺ら鬼は本来ならお前らが目にすることも出来ない高貴な種族なんだぞ。あんな雑魚に食われるような低俗弱者のくせに、頭がたけぇ」 「...黙れチビ」 屋敷の中にいるとはいえ自分より明らかに小さな少年を文字通り見下ろす。 案の定、足軽は顔を真っ赤にして怒鳴った。 「あぁーっ?!チビだと、栄呉聞いたか?!こいつの脳ミソぶちまけていいか?いいよな! よし、来いよ人間(ごみくず)!俺はチビじゃねえ!」 烈火の如く怒り狂い今にも胸ぐらに掴みかかろうとする足軽をさすがに我慢しきれなかったのか栄呉が首根っこを掴まえ引き留める。 「失礼。これは鬼の中でも例外的に脳ミソが足りませんので」 「その様だ」 「ちょっと待て栄呉!なんかすっげぇバカにされてないか!なあっ!」 バタバタと手足を振りながら怒鳴り散らすそれを栄呉がにこりと笑顔で黙らせる。 「これ以上姫様の御前で無粋な行いをするというのなら足らない脳ミソの代わりに猫の毛玉を脳天にぶちこむぞ」 「...。」 足軽が大人しく口を閉じたところで、栄呉はため息一つつくと向き直り露理に一礼する。 「お見苦しいところをお見せしました。 ですが、足軽の意見には私も同意見です。 このような劣悪な環境に姫様を置いてはおけません。先のあやかし共も数は多かれども知性無き低俗な輩。これほど歯が立たぬようであれば、姫様の身が心配です。」 「...。黙って聞いてりゃあ、人ん家の庭で好き勝手言ってくれる。」 疾風が静かに立ち上がり拳を握る。 服が血で汚れているのは身内の怪我を看ていたからだ。幸い死者は出なかったが、怪我をしたのは一人や二人ではない。 「本当のことでは?」 栄呉の目が細く鋭く光る。 「よい機会です。そこらの低俗なもののけをあたかも強者を狩っていると自賛しておられる術士風情に、あやかしの王族たる鬼との格の違いを教えて差し上げましょう」 口元を緩ませる栄呉に疾風も顔が険しくなる。一触即発の雰囲気の中、二人の間にクーピー3分キュッキングのメロディーが鳴り響いた。 「...メールだ」 「哉彌、着信音もうちょっとまともなやつに変えてくれ。」 疾風のため息を無視して携帯を取り出す。 すると今度は暴れん坊将君のメロディーが鳴り響いた。 疾風がスマホを取り出して目が合ったが互いに黙ったまま文面を開く。 『全術士への緊急通達』 題名を読むと同時にその本文に目を開く。 『鬼頭会七柱内一柱「紅月」謀反の動きあり。 許可無く京都本部への侵入、破壊行為。 あやかしとの同盟による背徳行為により公認術士の資格剥奪。全術士の京都集結および紅月哉彌の討伐を命ずる。 指揮は黒陽家当主 黒陽忠敬に一任す』 「...ハッ」 思わず鼻で笑った疾風はスマホを地面に投げ捨て勢いよく踵で踏みつけた。 「別に間違っちゃいねぇが、あやかしとの同盟ってのが癪に障る」 「...」 「ついでに舵取りが黒陽の野郎だってのも気に食わねえ!」 吠える疾風を横目で見つつ哉彌は思考する。 分かりきっていたことだ。 むしろ判断としては遅すぎると言える。 本部襲撃の際も簡単すぎた。あの老柱どもが誰一人出てこないことを考えても全て仕組まれていたのだろう。 それは見越していたこととしても、 まるでこちらが鬼と会うことを待っていたかのようなタイミング。それともこの二日間に何かしなければいけなかった、か。 「...疾風、召集の伝令は柱本人に伝えたのか?」 「当たり前だろ。二日前は全員生きてた。あの黒陽の顔も拝んできてやったんだ。」 「そうか...」 携帯の電源を落とすと視界の先に猫が座っていた。大きく丸い両眼と目が合うと猫は言う。 「変わらんのう、あやつらは。」 呆れるように呟くと猫は露理の膝元に歩み寄る。労るように頭を擦り付けると彼女の顔を見上げた。
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