三妖

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露理は猫の丸い体を撫で、息をつく。 動き出すことは分かっていたし、哉彌もこうなることは全て見越していた筈。それでも私を連れ出した。 「私はここを出るべきなのでしょう」 じっと自分の声に耳を傾ける三妖を順に見る。 「けれど、私は半妖です。私の存在を認めたくない者達もいるのでしょう?」 その言葉に足軽が大手を振る。 「そんなもん!おれが黙らせてやりますよ!姫はなぁーんにも気にしなくていい!」 「...。確かに、親方様の娘として認めない者はおります。」 栄呉の言葉を足軽が遮ろうとして、それを止める。知っている。鬼というものは、強い者に従う。力があれば、私は受け入れられたかもしれない。力も無く、血も半分となれば毛嫌いされるのは当たり前だ。 それでも三人が私を慕ってくれたのは有難い。それが父という大きな存在ゆえだとしても。 「...土蜘蛛のねえさんがいたら、みんな何も考えず姫の元に来たさ」 「土蜘蛛?」 足軽が呟いた鬼の名もよく知れわたっている強靭なあやかしの名前だ。 「申し訳ありません。土蜘蛛はもういないのです。先の人妖大戦で...」 二十年前。人とあやかしの一際大きな争いがあった。普段結束などしないあやかしが大軍となって京都へ攻めいったのだ。 人とあやかしの大戦は戦国の世を思い起こさせるものであったという。 もちろんそれを予知した露理がいたことで鬼頭会は今も現存しているわけだが、互いに被害は甚大だった。 栄呉が呟くと、足軽がギロリと二人を睨んだ。けして相容れぬ人間という生き物。 「そうだよな。鬼と人間が手を組むことなんかありえねぇ。あんたらの事情なんか知ったこっちゃねえ」 「気が合うなぁ、俺もそう思う」 足軽の挑発に疾風が笑い、風を纏う。 「俺の親父もその時死んだ。お前らと手を組むなんざこっちから願い下げなんだよ」 戦闘態勢に入った疾風に栄呉は同じく闘う意欲の見せる足軽を手で制した。そして笑う。 「...ほう。貴様風使いか」 「だったらなんだ」 「いや、懐かしくてな。私の右腕を落とした強者が同じ風を纏っていたなと」 栄呉は袖を捲り腕を差し出す。 それは肌の色が黒く壊死したような色をしていたが太く、強靭な人間の男の腕だった。 「!?...てめえ」 「記念として、代わりに貰った。なかなかに強かったよ人の割には」 その腕には月夜を思わせる黒い円と彼岸の花を模した刺青があった。一目で分かる紅月の頭の証である印。 「!」 疾風の姿が瞬時に消える。 それと同時に風が止み、辺りは静寂に包まれた。 ピリピリとした空気を裂くように栄呉の背後で火花が散る。 脇指しを掲げるように背後に差し込んだ先に疾風の拳があった。
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