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それから「僕は篠田と言います」と名前を教えてくれた。
「会社員なのに、今日はなぜ家にいるんですか?」
「ちょっと意地悪な質問だね」
意地悪と責めるわりに篠田さんは嬉しそうな顔だった。
「最近リモートワークが多いんだ。このご時世だし」
なるほど。
不意に小さく鈴が鳴る様な音がした。
「フォークだよ」
庭の大きな木の根元から、グレーと白のふわふわの毛並みの猫がこちらを覗き込んでいる。
「ぬいぐるみみたい」
「ラグドールの血が入ってるんだ」
「ラグドール?」
「ラグドールは猫の品種。ぬいぐるみって意味なんだよ」
篠田さんは木の根元からぬいぐるみみたいな猫を抱っこして、こちらに連れてきた。
また鈴の様な音。近くで聞くとそれは鈴ではなくその猫の鳴き声だった。
「かわいい鳴き声」
「うん」
篠田さんは来ていた黒いコートが汚れることも気にせず、ふわふわの猫を優しく抱きしめていた。
「フォークって何ですか?」
「この子の名前」
「食器のフォーク?」
「刑事コロンボって知ってる?」
「知らない」
「そっか」
フォークがまた鳴いた。
「家に入りたがってるみたい」
「じゃあ、さよなら」
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