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「さよなら。また会ったら今度こそ庭を散歩していきなよ」
篠田さんはからかうように目を細めて笑った。
家に帰って冷蔵庫の中を物色していると、母がキッチンにいたので聞いてみることにした。
「篠田さんって知ってる?」
「あの大きな庭のお家?」
「今日、そこの男の人と話したんだ」
「ああ、背の高い?」
「うん。その人」
「奥さんには会った?」
「奥さん?」
篠田さんは結婚してたのか?少し意外な気がした。
考えてみれば20代か30代なら結婚していてもおかしくない。でも篠田さんはどうもふわふわとしていてなんだか映画か小説の登場人物みたいに現実味がない。だから結婚しているなんて思わなかった。
「奥さんってことはあの人結婚してるの?」
「そりゃそうよ。東京出身のすごく綺麗な人よ」
「ふーん」
その後は篠田さんの家の前を通らなくなった。
ふわふわとした現実味のない篠田さんが結婚している「普通の人間」だと思いたくなかった。
結婚していて、普通の人間であることの何が悪いのか?
なぜ篠田さんに対して「普通の人」ではなく別世界の人であってほしいと思うのか?
どうしてなのかはわからなかった。
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