晴れた日、散歩する二人。

8/12
前へ
/12ページ
次へ
何故か篠田さんに聞いて欲しくて、要らぬことまで話してしまった。 篠田さんはただ穏やかに。 「そうかあ」と言った。 それからしばらく二人で歩いた後に「えらかったね」と言った。 「偉いですか?留年したのに」 「こんな寒い日に補習に行くなんてえらいよ」 穏やかな声のその言葉は、お世辞や嘘じゃないとすんなり信じられた。 篠田さんの家の前まで行く。 「靴がびしょびしょで冷たい」 「本当だね」 篠田さんの家の庭は相変わらず緑にあふれていた。曇り空の下でいつより大人しそうに見えた。 「このお家、古いレコードとかありそう」 「父さんのがいっぱいあるよ。グレンミラーとか知ってる?」 「知らない」 「聞いてみる?」 ちょっと戸惑っていると、篠田さんは玄関のドアを開けて、修理したばかりの自転車を家の中に入れようとした。 「庭に出しとくとすぐ錆びちゃうから。こらフォーク、外に出ちゃ駄目だよ」 フォークが玄関から飛び出してくる。 僕はぬいぐるみのようなフォークを素早く捕まえた。ふわふわして綿あめみたい。思ったより軽い。 「ごめん。その子を中に入れてくれる?」
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加