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がっしりとした木製の扉の奥はタイル張りの広い三和土だった。
廊下の奥にはドアが幾つかある。床は箱根の寄せ木細工みたいに綺麗な木目調。
人様の家をジロジロ覗くなんて失礼だと気がついて、目線を横にそらすと造り付けの靴箱の上に銀色の写真立てが飾られていた。
昔の映画で見るような細身のタキシードを着ていたのは篠田さんだった。眼鏡こそかけていないものの笑い方も体形も篠田さんだった。
隣にはシンプルなレースの付いたウエディングドレスを着た女性が目を細めて穏やかに微笑んでいる。
篠田さんは襟元に小さな黄色い花の飾りを、奥さんは黄色い花の小さなブーケを手にしてる。
タキシードもドレスも少しクラシカルなスタイルだけど写真自体がとても色鮮やかで、最近撮影したものなんだろうと分かった。
「やっと持って帰ってこれた。自転車って重いんだね」
フォークを渡すと篠田さんは優しく抱きとめた。
「ありがとう。レコードを聞く?」
「いや、また今度で」
「そう。じゃあまた」
篠田さんは穏やかに微笑んだ。
思えばこの人の前で『また今度』ばかり言っている。
口先だけの奴みたい。
天気の良い日、高校を卒業した。
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