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「……ウソ。それってもしかして、俺、期待して、いいの?」
瞬間的に駆け寄ろうとする俺を、「それ以上、今近寄ったらすべてを無効にする」と、たちまち鋭い言葉で先生は一刀両断する。
それから照れた声でつぶやいた。
「卒業式終わったら、お前とは晴れて教師と生徒じゃなくなる」
「でも父ちゃんのこと、」
「ヨージのことはたしかに忘れられねえ。俺にとって大切な人、だったから。けど、まぶたの裏じゃなくて、年甲斐もなく、ココから離れられない存在はお前しかいねぇんだよ」
ココ、と言いながら先生は心臓のあたりをボタンを握りしめた拳で叩く。
反射的に俺は先生を抱き締めていた。
好きだ。
すきだ。
すきだ。
先生のことが大好きだ。
「だからこれでようやくお前に想いを遂げたら、俺の気持ちもヨージの残像から成仏できるかもしれねぇな」
そう言って先生は、禁煙だというのにとうとう室内で電子タバコを吸い始めた。
俺の頬を熱いものが流れて、うん、と声を押し殺して静かに頷いた。
そしてそれ以上、なにも言わない先生を保健室に残して、俺は最後のホームルームへ向かった。
END
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