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それから、他人への暴言。父が駅員に暴言を浴びせるところを、私は幾度となく目撃した。
父が私の習い事のお迎えに来ていたときの話だ。
ちょうど交通系ICカードが普及し始めた頃で、父もそれを使っていたのだが、父が改札機を通ろうとすると、ことごとく阻まれるのである。キーンコーン、と音が響き、改札機のゲートが閉まる。
結論から言うと、駅から出る際に、きちんとタッチせずに無理やり改札機を突破しているから、入場時にエラーになっていた、というだけのことなのだが、父はそれに癇癪を起こし、駅員につめより暴言を吐いていた。
そのときの私の気持ちたるや。
小学生の私には、父をおいて一人で帰ってしまう、という選択肢がなかった。駅員に暴言をあびせる父を、私は駅構内で遠目から眺めていた。心の底から、他人のふりをしたいと思いながら。駅構内に入ってきた父に隣を歩かないでほしいと思った。
父は、おかしい、普通ではない、と勘づいた。
それと同時に、幾度となく父が駅員に食ってかかるのを見ておきながら、止めに入ることのできない己の弱さに嫌悪感をいだき、あんな人間と血縁関係があるという事実を恐ろしく感じていた。
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