2人が本棚に入れています
本棚に追加
しかし。
「振込手数料がかかるから、振り込めない」
この言葉が、私の目を覚まさせた。
父は私を騙した。
「振込手数料がかかるから、振り込めない」、本気でそう言っているのなら、最初から仕送りをするつもりなど、なかったのだから。
この件だけではない。幼い頃から私は、父に騙され続けてきたのだ。
この人の行動にも、言い分にも、何か理屈があるのかもしれない、この人なりの考えがあるのかもしれない、暴言にも暴力にも何か意味があるのかもしれない、そう思ってきた。
そんなことはなかった。最初から騙されていたのだ。
いや、私が勝手に騙された。
私は一人で勝手に、父のことを軽率に信用してきたのだ。
父は宇宙人だ。
きっと、あの人の頭の中では、私には到底理解できない理屈が通用していて、私とはわかりあえない。
私が、私の常識と良識に基づいて信用してよい人ではなかったのだ。
そして、父の頭の中で「振込手数料がかかるから、振り込めない」という理屈が成立しているとしたら、騙してやろうという悪意があったかは定かではない。
わたしが、騙されたのだ。一人で勝手に。
父がおかしな行動をとること、論理的に誤っていることを頑なに信じていること、思い通りにならなければ暴言を吐いたり暴力をふるったりする人物であること、それらをわかっていながら、私は父を信じたのだ。
愚かなのは私だったのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!