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「振込手数料がかかるから、振り込みたくない」ではなく、「振込手数料がかかるから、この場で渡す」でもなく、「振込手数料がかかるから、振り込めない」、そう父は言ってのけたのだ。ここまで状況を整理したところで、それならこの場で仕送りを渡してほしい、とだけ私は言えた。
けれど、父は「振込手数料がかかるから、振り込めない」の一点張りだった。
会話が成り立っていない。
一体この人は何を聞いてこの答えを放っているのだろう、と呆然とした。呆然として、次第にフツフツと怒りがわいた。意味不明な言い訳で言い逃れをする父に怒りがわいた。
あっけにとられ、それから腹が立ち、言葉がでなくなった私はこう言った。
やっぱりうちはお金がないんだね、と。
すると父はこう言った。
いやお金はある、株で今こんなに持っていて、それから金 ( ゴールド ) にも投資して、どうのこうの、どうのこうの。
挙句父の通帳まで見せられた。そこに書かれた数字を私は覚えていない。見る気が失せていた。確認しようという気が失せていた。
どっちやねん、そう叫びたかった。
振込手数料がかかるから振り込めないと言っておいて、舌の根の乾かぬ内に、株だの金だのに投資して資産があると主張する。
何一つ筋が通っていない。理屈が存在しない。
矛盾どころの騒ぎではない。
文法しか成立していない。
文章の意味が成り立っていない。
けれど、私には理解できない理屈が、きちんと通っているというのだろうか。
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