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「誠に申し訳ございません」
家につき、誰もいないのを確認した後、直ぐに平身低頭、とにかく謝る。
「本当に、一体なんとお詫びすれば良いのか…」
「ポピ郎は私をがっかりさせるのが好きなのね」
スッカリふきげん嬢である。
デバガメなのだ、観察対象への接触など不本意の極みだろう。
「僕はその……お嬢様が危険なのではないかとその…」
しかし、そもそも上屋山様の観察を提案したのは僕なのだ。カメラで撮影したのも僕、吃って対応不能になったのも僕。一から十まで僕の失態。
ふきげん嬢は僕の言葉に「危険?」と首を傾げる。
「あのおじさまが危険だって、ポピ郎はそういってるの?」
「へ?は、はい。あまり、その、まともな人には…」
「おばか。本当にしかたのないポピ郎ね」
お嬢様が、遂には嘆息あそばされ、
「身分を明かされて困る方が、まともじゃないはずないでしょう?」
呆れ果てた様にそういった。
「あのおじさまは、とても立派な社会人よ?多忙なのも、ストレスを圧して仕事してるのも本当。お見かけする時は、いつも疲れた顔しているもの」
まさか、本音で労っていたらしい。
「いや、だからって…」
「警察呼ばれても困らないというのも、まあ実際はどうかは知らないけれど、きっと本音でしょうね。クレーム入れるのと、他人の携帯覗きみるのがストレス解消かしら」
「お嬢様。まさか本当にお知り合いなので?」
「ポピ郎はもう少し周りをみるべきだと思うの」
そう言って、肩を竦めるふきげん嬢。
「今朝みたでしょう?」
「は?」
今朝みたと言われても、僕には全く心当たりがない。
「私がBL画像を眺めていた時、後ろから覗いていた方よ?以前から電車の中を、あんまり不自然にうろうろ移動していたものだから、少し気にしてた」
あの時か。
「あの方と同じ車両に乗り合わせた時用に色んな画像を用意して、鼻息の荒さで好みを計ってみたりしていたのだけど、気が付かなかったかしら」
どうやら元々目を付けていたらしい。
「結構がっつり観察されていたんですね…」
「スケベ心がはみ出ていたから、余り期待はしていなかったけれど。本当の理由は結局分からずしまい。考察は頓挫、夢も潰えたわ。ポピ郎も残念でしょう?今週のお茶会は結構です。だって……とてもそんな気分にはなれないのだもの」
お素麺もね。と、ついでの様に言うふきげん嬢。確かにスーパーに寄っていない。僕はどこまで残念なのか。
「はい、とても悲しいです」
肩を落とす僕に、ふきげん嬢は「まあ過ぎてしまった事はしょうがないわ」と、慈愛の言葉をかけて下さる。
「ひとつ罰を与えます。それでこの件はおしまい。水に流しましょう、お素麺だけに」
どうしたどうした?
どうやらこの度の事で、酷く調子を崩されてしまわれたようだ。
困惑する僕に、ふきげん嬢は「こほん」とひとつ咳払いをする。
「罰は……うーん、そうね…」
うわぁどんな罰が当たるのだろう?
僕は一体どんな目に合わされるのだろう?
おそろしいなぁ、おそろしいなぁ。
ヒドい事されるのかなぁ。
きっと辛い罰なんだろうなぁ。
「明日。上屋山様に『昨日はお嬢様が大変なご無礼を』と、謝ってきて頂戴」
わぁい…
見透かされているのだろう。直では罰をくれない、ふきげん嬢。
「ああホント、下らない」
このじとじととした梅雨雲の様に、そのお心は今暫く晴れる事はないだろう。
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