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中学2年の春、尊がクラブに帰ってきた。
手術とリハビリを乗り越え無事に退院したのだ。
「よろしく頼むわ、キャプテン!」
尊はそう言って僕の肩を軽く叩いた。
尊が抜けたことによって、僕がチームのキャプテンになっていた。
尊と僕はまたコンビとしてコートに立った。
といってもあの頃とは何もかも違う。
リハビリを終えたとはいえ1年間のブランクがある尊はアシストがメインになった。
一方繰り上がりキャプテンの僕はといえば、味方との連携がうまく取れず、それが影響して得点を逃す場面が目立っていた。
この1年間、チームの勝率は目に見えて落ちていた。
尊が抜けた1年間、僕はチームを導くことができなかった。
かつて確実に結果を残したコンビは、今はもう存在しない。
「ふぃーお疲れ!」
「……お疲れ様」
試合が終わって、いつもの帰り道を行く。
かつて他愛もない話で盛り上がり、確かな充実感を感じた帰り道。
今はただの灰色の道だ。
黙っているとそのまま飲み込まれてしまいそうで、慌てて適当な話を尊に振ってみる。
尊は元気に受け答えするがどこかチグハグで、何度か話したのち沈黙が訪れる。
「んー…俺は桜嫌いなんだよね」
そんなやり取りをしてる中で、尊はそう言った。
どんな話題からその話になったのかは覚えていない。
桜といえば新しい季節を象徴する物だ。
皆が好きとは言わないまでも、わざわざ嫌いというのは珍しい気がする。
それに明るい性格の尊はなんとなく桜が好きなイメージがあった。
そう思って尊の横顔を横目で覗くと、なんだか寂しい表情に見えた。
それを見て気が付いた。
あの日、あの事故があった日も、ちょうど桜が満開の時期だったじゃないか!
尊はあの日の事故をまだ引きずっている。無理もない、あの頃の実力を発揮できないんだ。悔しいに決まってるじゃないか。せめてチームが強ければまだ良かった。だけど全てあの頃とは変わってしまった。誰のせいか、僕のせいだ。僕が尊の代わりにチームを導けなかったから。尊の帰ってくる場所を僕は壊してしまった。尊はきっと自分のせいでチームが弱くなったと思ってる。責任を感じてる!でもそれは違う!責任は僕にあるんだ!
尊は、そんな僕のことをどう思っているのだろう
考えがまとまらない。
頭の中でイメージしていた桜の花びらが、一気に散って降り積もっていく。
そのまま思考を覆いつくして、重くて黒い塊だけが残った。
適当に返事を返して、そのまま黙って下ばかり見て歩いた。
尊が何か言った気もするがよく分からなかった。
曇り空の下、お互い黙って同じ道を行く。
小石を蹴る音だけが妙に響いていた。
そのまま灰色の道に飲み込まれてしまいたかった。
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