散って、積もって、また咲いて

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新年を実家で迎えてから数日がたったある日、僕は地元の街をぶらぶらと歩いていた。 明日には下宿に帰らなくてはいけない。そうしたらこの春からは4回生だ。きっと研究が忙しくて来年は実家に帰れないかもしれないな。 そう思って、最終日に街を見て回っておこうと思ったのだ。 少しだけ変わった商店街と変わらない街の空気。 慣れ親しんだ街を適当に回ったみたが、よく考えたら去年も帰ってきたのだからそこまで感慨深くはなかった。 なんだか飽きてきたな、実家に戻って明日の準備でもするか。 そう思って道を引き返そうとした、その時―― 「………」 遠くで何かが聞こえた気がする。 「……と!」 知っている声が聞こえる。 頭が急に重くなった気がする。 「……隼人(はやと)!隼人だよな!」 振り返ると懐かしい顔の男が手を振っていた。 「久しぶり!こっち来てたんだなー!」 「……(たける)」 「お前高校行ってから全然連絡くれないからさー、忙しいのは分かるけど。最近どんな感じなの」 「まぁ…ぼちぼちだよ」 黒い何かがどんどん重くなっていく。 「んー?まぁいいや。」 「それで最近はサッカーやってんの?」 「………」 ――もう限界だ。 「辞めたよ、サッカーは」 「え?」 「高校に行ってからも一応続けてはいた。でもずっと気持ち悪かった。あの時からずっと」 「ん……」 「尊が入院して、クラブのキャプテンを任されて。尊の代わりになろうと必死で」 「………」 「でも僕なんかじゃ尊の代わりが務まる訳なくて。チームはまとまらなくて。そのまま尊が戻ってきて」 「………」 「それでもチームはまとまらなくて。尊に責任を感じさせた!何も悪くないのに!悪いのは僕の方なのに!」 「………」 「ずっと謝りたかった…尊の代わりができなくてごめんって。尊の居場所を壊してごめんって。でも言えなかった!」 「………」 「それで尊が自分のことをどう思ってるのか、知りたくなかったから。知るのが怖かったから!」 「………」 「僕は…尊のやさしさに甘えたまま…そのまま全部見ないふりをしたくて逃げたんだ…」 「………」 「ごめん……尊……」 「………」 沈黙が流れる。 静まり返った冷たい空気を肌で感じる。 全ての時間が止まってしまったような気がする。 数秒か数分か数時間か。 定かでない時が流れて、尊が口を開いた。 「………で、言いたいことはそれで終わり?」
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